IIIFを用いた高品質/高精細の画像公開と利用事例

IIIFとは?

IIIF (International Image Interoperability Framework)とは、画像へのアクセスを標準化し相互運用性を確保するための国際的なコミュニティ活動である。これまでの成果物は、画像へのアクセスを定めるIIIF Image API 2.1、書籍などの構造を定めるIIIF Presentation API 2.1、そして検索に基づくアクセスを定めるIIIF Search API 1.0という3つのAPIである。APIは仕様が公開されているため、誰でも自由にAPIに準拠したソフトウェアを開発し、オープンソースとして公開できる。そのためIIIFに対応したオープンソースソフトウェアが既にいくつも誕生しており、これがIIIFの使い勝手を向上させることで、さらにユーザが集まるという好循環が働いている。

ただしIIIFはまだ発展途上の枠組みであり、重要なユースケースをすべてカバーできているわけではない。例えばIIIF Presentation API 2.1仕様の冒頭には、この仕様が物理的なオブジェクトの画像表示を対象とするものであり、ページのナビゲーションや各種テキストの表示はスコープ内とするが、興味のあるデジタルオブジェクトを発見したり選択したりする機能はスコープ外とすることが明記されている。このようにIIIFがカバーできていないユースケースに対しては、現状のAPIの範囲で満足するだけでなく、IIIFの世界観を踏まえた新しい仕様を提案をすることも、コミュニティへの貢献として重要である。

IIIF (International Image Interoperability Framework)

なおIIIFの様々な側面については、以下のセミナーの発表資料を参考にしていただきたい。

第4回CODHセミナー デジタルアーカイブにおける画像公開の新しいトレンド~IIIFが拓く画像アクセスの標準化と高度化~

IIIF規格の拡張

特に我々が着目したユースケースは、興味のあるデジタルオブジェクトを複数の書籍から複数選ぶという選択機能である。これはテーマごとに資料を収集し配列するキュレーションには必須の機能であるが、現状のIIIF規格の枠内ではこうした機能を実現することは困難である。なぜならIIIF Presentation APIは物理的な書籍(オブジェクト)を基本単位とするため、それをバラバラに断片化し別の視点で再構成するというユースケースは含まないためである。そこで我々は、キュレーションを実現するための新しい規格として、Curation APIを提案することとした。

Curation API

キュレーションという言葉は、もともとのアートの世界においては、キュレーターの独自の視点に沿って作品を選択し配列する行為や、その価値を外に向けて論じる行為を意味していた。しかし近年はキュレーションの意味も大きく広がりつつあり、いわゆる「まとめサイト」などもキュレーションと呼ばれている。こうした状況を踏まえると、Curation APIにも様々なユースケースが想定できるが、現在のところは最も基本的な機能として、複数の書籍から画像の一部を集めて収集してリスト化する機能を検討している。そしてそのAPIの参照実装となるソフトウェアとして、「IIIF Curation Viewer」をオープンソースで公開している。

IIIF Curation Viewer

その後、自然科学データへの利用を考慮したTimeline APIや、大規模データで大量のCanvasが存在する場合にも対応できるCursor APIなど、IIIF Presentation APIでは満たすことのできないユースケースに対応するための拡張仕様を提案し、IIIF Curation Viewerに実装している。

Timeline API

Cursor API

現在はIIIFにおいてキュレーションを扱うための基盤としてのシステムとなる「IIIF Curation Platform」の構築に取り組んでいる。このプラットフォームは検索に焦点を合わせることで、キュレーションの再利用性をさらに高めていくことを目指している。

IIIF Curation Platform

IIIFの利用事例

人文科学データの利用事例

IIIFの活用事例として、まずターゲットとなるのは人文科学データを主とした書籍デジタル化に関するものである。日本古典籍データセットで配布する高精細画像データの閲覧にIIIF Curation Viewerを利用している。

日本古典籍データセット

またIIIF Curation Viewerを用いることで、テーマに沿って資料横断的に画像を収集することが可能になる。これは美術史など画像を主たる研究対象とする研究分野の重要な研究ツールとなる可能性を秘めている。

日本古典籍キュレーション

貴重書で綴るシルクロード

さらに、美術史研究や日本史研究の基礎的データをIIIF Curation Viewerで収集し、それをIIIF Curation Finderで検索して再編集するための研究基盤としてのIIIF Curation Platformの構築も始まっている。

顔貌コレクション

武鑑全集

IIIFの相互運用性のメリットは、1つのソフトウェアを作るだけで、世界中のIIIF公開サイトのデータが同じ方法で使える点にある。以下の例は、グローバルなスケールで複数のサイトを横断し、テーマごとに画像を集めるキュレーションを実現したものである。

IIIFグローバルキュレーション

さらに既存のデジタルアーカイブに対してIIIFビューアを新たに追加した事例では、既存のデジタルアーカイブ自体には手を加えずにその外側に設置したIIIFビューアと相互リンクすることで、大きな改修なしにIIIFを導入する一つの方法を示した。

国立情報学研究所 - ディジタル・シルクロード・プロジェクト 『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ

自然科学データの利用事例

IIIFは書籍データの画像配信から出発しているため、IIIFの規格やソフトウェアも書籍を前提とした考え方となっている。しかし自然科学などの科学分野でも高解像度画像データが重要な研究資源となっていることから、IIIFコミュニティでは科学データへの拡張が今後の重要な課題として認識されている。そこで我々はIIIF Curation Viewerを自然科学データでも特に重要な時系列データに拡張したIIIF Curation Viewer for Timelineを開発し、これを用いた活用事例として、気象衛星「ひまわり」の大規模衛星画像データ配信を実現した。

IIIF (International Image Interoperability Framework)の自然科学分野への利用

デジタル台風:気象衛星「ひまわり」図鑑

IIIFサイト一般での利用事例

上記の利用事例は、特定サイトのIIIFリソース活用を意図したものであるが、IIIF Curation Viewerは一般のIIIFサイトを表示し、キュレーション対象とすることができる。この機能は、特定資料閲覧のためのビューアではオフにしているが、以下のデモサイトでは任意のIIIFリソースを表示可能としているので、試していただきたい。

IIIF Curation Viewerのデモ

なおIIIFの機能が条件を満たしていないサイトでは表示できないことがあるため、最初は以下のおすすめIIIFサイトなどからキュレーションを初めてみるとよい。

おすすめIIIFサイト

IIIFコレクション

IIIFにはコレクション(Collection)という、マニフェストのリストを構築するための要素が存在する。利用例はまだ少ないが、IIIFの発見には有用な機能であると考えられる。

システム構築

IIIFを利用してデータを公開するには、サーバ側およびクライアント側の双方に対して準備が必要である。ただしクライアント側については、既存のビューアを利用することで準備を省略することも可能である。

IIIF画像サーバ

まずサーバ側については、画像を配信するImageサーバおよびメタデータを配信するManifestサーバが必要である。Imageサーバについては、我々はIIPImageを利用している。IIPImageは、インストールや設定がやや難しいという問題があるものの、パフォーマンスの点では優れているためこれを利用している。一方Manifestサーバについては、我々は静的にManifestを生成しているため、通常のHTTPサーバを用いるだけで問題なく配信できる。

IIIF画像ビューア

次にクライアント側については、通常は既存のIIIF Image API対応ビューアやIIIF Presentation API対応ビューアを用意すれば十分である。ズームイン/ズームアウトで解像度を自由に変化させながらページめくりができるオープンソースソフトウェアがいくつも公開されている。例えば国立国会図書館は、IIIFに関するヘルプにいくつかのソフトウェアを紹介している。

しかしIIIFの相互運用性を活用すれば、実は画像公開サイト上に独自のビューアを設置する必要はない。他サイト(あるいはユーザのマシン)のIIIFビューアに、公開されているManifestをドラッグ&ドロップすれば画像を閲覧できるため、必須項目なのはManifestの公開だけであり、ビューアの設置はオプション項目である。このようにIIIFでは画像公開と画像閲覧が分離しているため、画像公開サイトはデータの公開に特化できるというのがIIIFの一つのメリットである。逆に言えば、独自のIIIFビューアを設置するのであれば、なぜそのビューアを設置しているのかという点について公開者の見識が問われるとも言える。

我々はIIIFがキュレーションという機能を提供すべきとの目標のもと、IIIF Curation Viewerというソフトウェアを開発し、独自のビューアとして設置することにした。これは、Leaflet IIIFというImage API相当の機能を備えたライブラリを基盤とし、その上にPresentation APIの機能の重要な部分を実装した上で、独自の機能を加えたものである。

IIIF Curation Viewerの使い方やそのインパクトについては、以下の紹介記事が参考になる。

  1. 世界各地の高精細画像で簡単に自分の仮想コレクションを!(IIIF Curation Viewer)
  2. つながる世界のコンテンツ──IIIFが描くアートアーカイブの未来
  3. Mapping Vincent Van Gogh

今のところ画像公開サイトと画像閲覧ビューアは一体として結び付いているように見えているが、将来的には自分好みのビューアで閲覧する方向に変わってくる可能性がある。ウェブページを閲覧するためのブラウザを、利用者が各自で好きに選んでいるのと同じような状況である。また初期のHTMLに対してブラウザがそれぞれ独自拡張を競ったように、IIIFについてもビューアが独自拡張を競う状況になるかもしれない。独自拡張の乱立は基本的に好ましくはないが、仕様の成長期には避けられないものでもある。

ではIIIFにおいて好みのビューアを簡単に選ぶにはどうすればよいだろうか。そんな方向を目指した一つの試みとして、本間氏によるOpen in IIIF Viewerを紹介したい。これは、ウェブページ上に出現するマニフェストを自動的に検出し、自分が使いたいIIIF Viewerでマニフェストを開くためのFirefox/Chrome拡張である。

IIIF Viewerはそれぞれ異なる動機のもとで設計されているため、自分の目的によって使いやすいソフトウェアは異なるはずである。目的に合ったIIIF Viewerを選んで使いこなせる環境を、将来的には実現したいと考えている。

参考文献

  1. Asanobu KITAMOTO, Jun HOMMA, Tarek SAIER, "IIIF Curation: the concept, its development, and its potential impact on search and discovery", 2018 IIIF Conference, 2018年5月
  2. 北本 朝展, "IIIF Curation Viewerを用いたひまわり8号・9号気象衛星画像のキュレーション", 日本地球惑星科学連合(JpGU)2018年大会, No. MGI26-09, 2018年5月
  3. 北本 朝展, "IIIF Curation Viewerの開発と利用", IIIF Japan シンポジウム〜デジタルアーカイブにおける画像公開の新潮流〜, 2017年10月
  4. 第4回CODHセミナー デジタルアーカイブにおける画像公開の新しいトレンド~IIIFが拓く画像アクセスの標準化と高度化~
  5. Asanobu KITAMOTO, "Extending IIIF to curation and timeline: case studies in cultural heritage, humanities, and natural sciences", 2017 IIIF Conference, 2017年6月
  6. 北本 朝展, "IIIFを用いた時空間データへの多重解像度アクセスとひまわり8号データへの適用", 日本地球惑星科学連合(JpGU)2017年大会, No. MGI30-09, 2017年05月