江戸観光案内

江戸観光案内は、江戸時代に出版された観光ガイドブックである「名所案内」「名所記」「名所図会」の中から各世紀2点ずつ計6点を選び、IIIF Curation Platformを活用して挿絵を収集するとともに、名称やキーワードを付与することで、江戸を中心とする観光に関するビジュアルな名所挿絵データベースとして構築したものです。さらに歴史地名データ江戸マップβ版などの地理情報と紐づけ、江戸の観光に関する情報基盤として活用します。

江戸観光案内キュレーション - IIIF Curation Finderによる検索

また関連プロジェクトとして、江戸買物案内もご覧下さい。

江戸観光案内の活用

江戸観光案内は、IIIF Curation Platformを利用して「名所案内」「名所記」「名所図会」から収集した挿絵データを、様々な切り口で検索・再編集可能にしています。

メタデータ項目を眺め、現在も知られている観光地の名前や、興味を持ったキーワードを使って検索することで、江戸の観光に関わる様々な挿絵を見つけることができます。出版物毎の描き方の違いを見るのも楽しいでしょう。また、江戸の観光を復元するためのデータとして以下のような活用方法を考えることができます

1. 名所の植栽を知る

江戸時代にも樹木や花など植栽が関わる観光名所が多くありました。すぐイメージできるのは江戸の「桜」でしょう。また、「松」や「梅」の名所も多数ありました。江戸観光案内で、キーワードの登場数が多い「桜」「松」の検索結果を見ると、植栽によって名所の特徴が異なることが分かります。

まず「桜」で検索してみると、寛永寺や飛鳥山、隅田川土手、小金井桜など今日も桜の名所として名高い場所が複数の出版物を横断して繰り返し現れます。『絵本江戸土産』では、有名な桜の名所が複数の挿絵を用いて紹介されています。江戸時代においても桜の名所はある程度固定された群生地であったことが分かります。

一方で「松」で検索してみると、「松」の名所は少し異なった特徴を持っています。中には「麻布一本松」の様に複数の出版物を横断して登場する名所もありますが。多くの場合は単独で登場し、繰り返し登場することもあまりありません。

図1 寛永寺・飛鳥山など有名な名所が並ぶ「桜」(上)と、遍在する「松」(下)

2. 名所の持つイメージの変化を知る

挿絵として描かれる名所には、当時の人びとにとってイメージしやすい要素が凝縮されています。作者や版元が「当時の人びとの共通イメージ」と考えている要素がどのように変化したか、出版物を横断して名所を見てみることでその一端を知ることができます。

例えば、今日も人気を博す「隅田川花火大会」、江戸時代の様子として思い浮かぶものに浮世絵にもしばしば描かれる「両国橋から見える花火」というイメージがあります。そこで、「両国橋」で検索してみると8枚の挿絵を見ることができます。しかし、このうち花火が描かれているのは『江戸名所図会』と『絵本江戸土産』のみであることも分かります。これらはピックアップした中では最も新しい二冊で19世紀に出版されたものです。それ以前の挿絵では賑わい・納涼などのイメージで両国橋が描かれていますが、明確に花火と取れる表現はありません。隅田川の花火の起源については諸説ありますが、この挿絵の変遷は「両国橋・花火」のイメージの定着過程を見る一つのヒントとなりえます。

図2 「両国橋」の検索結果、花火が明確に描かれているのは二枚の挿絵のみ

データベースの構築

江戸観光案内はIIIF Curation Platformを利用して構築しました。具体的な手順は以下の通りです。

  1. IIIF Curation Viewerのキュレーション作成機能を利用し、各出版物から名所の挿絵を選択し収集しました。
  2. IIIF Curation Viewerのキュレーションメタデータ編集プラグインを利用し、キーワードや統一地名、歴史地名データID江戸マップIDなどのメタデータを付与しました。
  3. IIIF Curation Finderにより、メタデータで検索可能なデータベースとして公開しました。

メタデータは以下の方針に沿って付与しました。

項目 説明
出典 キュレーション元の出版物名を記載しています。
キーワード 横断的な検索を助けるために、名所に関連する自由記述のキーワードを採用しました。検索の用に供するために、適宜見直しを行っていきます。
名所(統一地名) 出版物間での揺れを調整した、統一的な地名です。「歴史地名データ」に該当する地名がある場合はそちらを採用し、該当がない場合はデータ制作者が一般的と判断した地名を採用しています。
名所(原本表記) 出版物に記載されている地名をそのまま記載しています。横断的な検索には向きませんが、各出版物が発行された当時の一般的な呼称を知ることもできるため、データをして整備してあります。
例:統一地名「泉岳寺」に該当する原本表記=芝泉岳寺(『江戸名所記』)、高はなせんがくじ(『江戸名所百人一首』)、泉岳寺(『江戸名所図会』)
歴史地名データID 「歴史地名データ」に該当する名所がある場合、IDを記載しています。

利用した資料(2020年12月7日現在)

  1. 『江戸名所記』(新日本古典籍総合データベース・北海道大学附属図書館所蔵)
  2. 『江戸名所図会』(日本古典籍データセット・国文学研究資料館撮影/味の素食の文化センター蔵)
  3. 『江戸名所百人一首』(国立国会図書館デジタルコレクション)
  4. 『絵本江戸桜』(日本古典籍データセット・国文学研究資料館蔵)
  5. 『絵本江戸錦』(日本古典籍データセット・国文学研究資料館蔵)
  6. 『絵本江都の見図』(日本古典籍データセット・国文学研究資料館蔵)
  7. 『絵本/江戸土産』(日本古典籍データセット・国文学研究資料館蔵)

メンバー

  • 総括:北本 朝展(人文学オープンデータ共同利用センター / 国立情報学研究所)
  • キュレーション制作:鈴木 親彦(人文学オープンデータ共同利用センター / 国立情報学研究所)

参考文献

  1. 北本 朝展, 鈴木 親彦, 寺尾 承子, 堀井 美里, 堀井 洋, "地理的史料を対象とした歴史地名の構造化と統合に基づく江戸ビッグデータの構築", 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2020論文集, pp. 171-178, 2020年12月 [ Paper ]
  2. Chikahiko SUZUKI, Asanobu KITAMOTO, "Pre-Modern Japanese Books as Data of Humanities: Finding Image of Edo Famous Place from Meisho-Ki 名所記 and Meisho-Zue 名所図会 using IIIF", Ninth Conference of Japanese Association for Digital Humanities (JADH2019), pp. 42-45, 2019年8月 (in English) [ Paper ]
  3. 鈴木 親彦, 北本 朝展, "IIIF Curation Platform による『江戸買物独案内』のマイクロコンテンツ化:非文字情報を軸に", 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2019論文集, pp. 11-18, 2019年12月 [ Paper ]

謝辞

江戸観光案内は科学研究費助成事業「人文学資料マイクロコンテンツ化の実践研究 -江戸の都市空間再構築を通して-」(20K20141・研究代表者鈴木親彦)の支援を受けて構築しています。

品質向上への取り組み

江戸観光案内はさらなるデータの改善や幅広い活用を目指しています。品質向上やメタデータ項目の整理に関するご意見については、下記報告フォームよりお寄せください。

江戸観光案内 報告フォーム

ニュース

2020-12-07

江戸観光案内を公開しました。