IIIFとは?
IIIF (International Image Interoperability Framework)とは、画像へのアクセスを標準化し相互運用性を確保するための国際的なコミュニティ活動である。その成果として、画像へのアクセス方式を定めるIIIF Image API 2.1、書籍などの構造を定めるIIIF Presentation API 2.1、検索を用いたアクセス方式を定めるIIIF Search API 1.0、認証つきアクセスのためのワークフローを定めるIIIF Authentication API 1.0の4つのAPIが公開されている。APIの仕様が公開されているため、APIに準拠したソフトウェアを誰でも自由に開発することができ、さらにその成果をオープンソースとして公開することも可能である。こうしてIIIFに対応したオープンソースソフトウェアがいくつも生まれ、それらがIIIFの使い勝手を向上させることで、さらにユーザが集まるという好循環が働いている。
IIIF (International Image Interoperability Framework)
IIIFはまだ発展途上の枠組みであり、重要なユースケースをすべてカバーできているわけではない。例えばIIIF Presentation API 2.1仕様の冒頭には、この仕様が物理的なオブジェクトの画像表示を対象とするものであり、ページのナビゲーションや各種テキストの表示はスコープ内とするが、興味のあるデジタルオブジェクトを発見したり選択したりする機能はスコープ外とすることが明記されている。このようにIIIFがカバーできていないユースケースに対しては、現状のAPIの範囲で満足するだけでなく、IIIFの世界観を踏まえた新しい仕様を提案をすることも、コミュニティへの貢献として重要である。
なおIIIFの様々な側面については、以下のセミナーの発表資料を参考にしていただきたい。
第4回CODHセミナー デジタルアーカイブにおける画像公開の新しいトレンド~IIIFが拓く画像アクセスの標準化と高度化~
第14回CODHセミナー - IIIF Curation Platform利活用レシピ100連発
IIIF仕様の拡張
特に我々が着目したユースケースは、興味のあるデジタルオブジェクトを複数の書籍から複数選ぶという選択機能である。これはテーマごとに資料を収集し配列するキュレーションには必須の機能であるが、現状のIIIF仕様の枠内ではこうした機能を実現することは困難である。なぜならIIIF Presentation APIは物理的な書籍(オブジェクト)を基本単位とするため、それをバラバラに断片化し別の視点で再構成するというユースケースは含まないためである。そこで我々は、キュレーションを実現するための新しい仕様として、Curation APIを提案することとした。
キュレーションという言葉は、もともとのアートの世界においては、キュレーターの独自の視点に沿って作品を選択し配列する行為や、その価値を外に向けて論じる行為を意味していた。しかし近年はキュレーションの意味も大きく広がりつつあり、いわゆる「まとめサイト」などもキュレーションと呼ばれている。こうした状況を踏まえると、Curation APIにも様々なユースケースが想定できるが、現在のところは最も基本的な機能として、複数の書籍から画像の一部を集めて収集してリスト化する機能を検討している。そしてそのAPIの参照実装となるソフトウェアとして、「IIIF Curation Viewer」をオープンソースで公開している。
その後、自然科学データへの利用を考慮したTimeline APIや、大規模データで大量のCanvasが存在する場合にも対応できるCursor APIなど、IIIF Presentation APIでは満たすことのできないユースケースに対応するための拡張仕様を提案し、IIIF Curation Viewerに実装している。
さらに議論を深めるならば、IIIFにおけるキュレーションとは、IIIFの世界を提供者主導型から利用者主導型の世界へ、あるいは画像公開から画像利用へと展開するための試みであるとも言える。キュレーションとは利用者が目的に応じて構築する仮想的なコレクションであり、これは利用者が独自に構築するものである。既存の作品の組み合わせから新たな価値を生み出すというキュレーションの考え方をIIIFに導入するため、我々は「IIIF Curation Platform」の構築に取り組んでいる。このプラットフォームはキュレーションに関わる一連のワークフローをサポートすることで、キュレーションの再利用性を高めていくことも目指している。IIIF Curation Platformを構成する各種のオープンソースソフトウェアについては、以下のページをご覧いただきたい。
IIIFの利用事例
人文科学データの利用事例
IIIFの活用事例として、まずターゲットとなるのは人文科学データを主とした書籍デジタル化に関するものである。日本古典籍データセットで配布する高精細画像データの閲覧にIIIF Curation Viewerを利用している。
IIIF Curation Viewerによって、テーマに沿って資料横断的に画像を収集することが可能になる。これは美術史など画像を主たる研究対象とする研究分野の重要な研究ツールとなる可能性を秘めている。
美術史研究や日本史研究の基礎的データをIIIF Curation Viewerで収集し、それをIIIF Curation Finderで検索して再編集するための研究基盤としてのIIIF Curation Platformの構築も始まっている。
IIIFの相互運用性のメリットは、1つのソフトウェアを作るだけで、世界中のIIIF公開サイトのデータが同じ方法で使える点にある。以下の例は、グローバルなスケールで複数のサイトを横断し、テーマごとに画像を集めるキュレーションを実現したものである。
既存のデジタルアーカイブに対してIIIFビューアを新たに追加した事例では、既存のデジタルアーカイブ自体には手を加えずにその外側に設置したIIIFビューアと相互リンクすることで、大きな改修なしにIIIFを導入する一つの方法を示した。
国立情報学研究所 - ディジタル・シルクロード・プロジェクト 『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ
一方、既存のデジタルアーカイブに対して、写真画像を表示する部分だけを埋め込み型IIIFビューアに置き換えて公開した事例もある。
さらに先進的な事例として、古写真の自動カラー化や古写真の自動タグづけに機械学習、AI(人工知能)を導入し、埋め込み型IIIFビューアの画像切り替え機能や画像切り取り機能を活用した写真アーカイブもある。
華北交通アーカイブ - よみがえる膨大な白黒写真 戦中の国策鉄道会社が遺した奇跡的な写真アーカイブ(AI・技術)
また、ミュージアム等でのオンライン展示に活用した例もある。
KeMCoグランド・オープン記念企画「交景:クロス・スケープ」
カメラが写した80年前の中国―京都大学人文科学研究所所蔵 華北交通写真
自然科学データの利用事例
IIIFは書籍データの画像配信から出発しているため、IIIF仕様やソフトウェアも書籍を前提とした考え方となっている。しかし自然科学などの科学分野でも高解像度画像データが重要な研究資源となっていることから、IIIFコミュニティでは科学データへの拡張が今後の重要な課題として認識されている。そこで我々はIIIF Curation Viewerを自然科学データでも特に重要な時系列データに拡張したIIIF Curation Viewer for Timelineを開発し、これを用いた活用事例として、気象衛星「ひまわり」の大規模衛星画像データ配信を実現した。
IIIF (International Image Interoperability Framework)の自然科学分野への利用
IIIFサイト一般での利用事例
上記の利用事例は、特定サイトのIIIFリソース活用を意図したものであるが、IIIF Curation Viewerは一般のIIIFサイトを表示し、キュレーション対象とすることができる。この機能は、特定資料閲覧のためのビューアではオフにしているが、以下のデモサイトでは任意のIIIFリソースを表示可能としている。
なおIIIFの機能が条件を満たしていないサイトでは表示できないことがあるため、最初は以下のおすすめIIIFサイトなどからキュレーションを初めてみるとよい。
IIIFコレクション
IIIFにはコレクション(Collection)という、マニフェストのリストを構築するための要素が存在する。利用例はまだ少ないが、IIIFの発見には有用な機能であると考えられる。なおコレクションの一覧表示には、神崎正英氏によるImage Annotatorを利用している。
システム構築
IIIFを利用してデータを公開するには、サーバ側およびクライアント側の双方に対して準備が必要である。ただしクライアント側については、既存のビューアを利用することで準備を省略することも可能である。
IIIF画像サーバ
まずサーバ側については、画像を配信するIIIF画像サーバが必要である。画像サーバについては、我々はIIPImageを利用している。IIPImageは、インストールや設定がやや難しいという問題があるものの、パフォーマンスの点では優れているためこれを利用している。
IIIFプレゼンテーションサーバ
次に、画像のメタデータをIIIF Presentation APIのマニフェスト形式で配信するIIIFプレゼンテーションサーバが必要である。これはデータベースに保存されているメタデータ形式を変換して提供するためのサーバであるが、我々はマニフェストを生成するスクリプトを用いてオフラインで生成しているため、通常のHTTPサーバだけで配信することができる。
IIIF画像ビューア
次にクライアント側については、通常は既存のIIIF Image API対応ビューアやIIIF Presentation API対応ビューアを用意すれば十分である。ズームイン/ズームアウトで解像度を自由に変化させながらページめくりができるオープンソースソフトウェアがいくつも公開されている。例えば国立国会図書館は、IIIFに関するヘルプにいくつかのソフトウェアを紹介している。
しかしIIIFの相互運用性を活用すれば、実は画像公開サイト上に独自のビューアを設置する必要はない。他サイト(あるいはユーザのマシン)のIIIFビューアに、公開されているManifestをドラッグ&ドロップすれば画像を閲覧できるため、必須項目なのはManifestの公開だけであり、ビューアの設置はオプション項目である。このようにIIIFでは画像公開と画像閲覧が分離しているため、画像公開サイトはデータの公開に特化できるというのがIIIFの一つのメリットである。逆に言えば、独自のIIIFビューアを設置するのであれば、なぜそのビューアを設置しているのかという点について公開者の見識が問われるとも言える。
我々はIIIFがキュレーションという機能を提供すべきとの目標のもと、IIIF Curation Viewerというソフトウェアを開発し、独自のビューアとして設置することにした。これは、Leaflet IIIFというImage API相当の機能を備えたライブラリを基盤とし、その上にPresentation APIの機能の重要な部分を実装した上で、独自の機能を加えたものである。
IIIF Curation Viewerの使い方やそのインパクトについては、以下の紹介記事やデジタルアーカイブが参考になる。
- 世界各地の高精細画像で簡単に自分の仮想コレクションを!(IIIF Curation Viewer)
- つながる世界のコンテンツ──IIIFが描くアートアーカイブの未来
- Mapping Vincent Van Gogh
- 電子展示『捃拾帖』[くんしゅうじょう]
今のところ画像公開サイトと画像閲覧ビューアは一体として結び付いているように見えているが、将来的には自分好みのビューアで閲覧する方向に変わってくる可能性がある。ウェブページを閲覧するためのブラウザを、利用者が各自で好きに選んでいるのと同じような状況である。また初期のHTMLに対してブラウザがそれぞれ独自拡張を競ったように、IIIFについてもビューアが独自拡張を競う状況になるかもしれない。独自拡張の乱立は基本的に好ましくはないが、仕様の成長期には避けられないものでもある。
ではIIIFにおいて好みのビューアを簡単に選ぶにはどうすればよいだろうか。そんな方向を目指した一つの試みとして、本間氏によるOpen in IIIF Viewerを紹介したい。これは、ウェブページ上に出現するマニフェストを自動的に検出し、自分が使いたいIIIF Viewerでマニフェストを開くためのFirefox/Chrome拡張である。
IIIF Viewerはそれぞれ異なる動機のもとで設計されているため、自分の目的によって使いやすいソフトウェアは異なるはずである。目的に合ったIIIF Viewerを選んで使いこなせる環境を、将来的には実現したいと考えている。
CODHセミナー
- 第4回CODHセミナー - デジタルアーカイブにおける画像公開の新しいトレンド~IIIFが拓く画像アクセスの標準化と高度化~
- 第14回CODHセミナー - IIIF Curation Platform利活用レシピ100連発
- 第15回CODHセミナー - IIIFとAIで変わる美術史研究 - 大規模顔貌データの様式分析から読み解く日本中世絵巻
参考文献
- Asanobu KITAMOTO, Tomohiro IKEZAKI, "Creating Image Annotations Using the IIIF Curation Platform for a Digital Humanities Project on the Omeka S", Lightning talks in IIIF Fall Working Meeting 2021, 2021年11月 (in English)
- Asanobu KITAMOTO, Jun HOMMA, Tarek SAIER, "IIIF Curation Platform: Canvas-Level Linking Structure for User-Driven Content Creation", 2021 IIIF Annual Conference, 2021年6月 (in English)
- 鈴木 親彦, 髙岸 輝, 本間 淳, Alexis Mermet, 北本 朝展, "日本中世絵巻における性差の描き分け-IIIF Curation Platform を活用した GM 法による『遊行上人縁起絵巻』の様式分析", 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2020論文集, pp. 67-74, 2020年12月
- 北本 朝展, "オープンな画像の利活用を開拓するIIIF Curation Platform", カレントアウェアネス, No. E2301, 2020年9月
- 北本 朝展, 本間 淳, Tarek SAIER, "IIIF Curation Platform:利用者主導の画像共有を支援するオープンな次世代IIIF基盤", 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2018, pp. 327-334, 2018年12月
- Asanobu KITAMOTO, Jun HOMMA, Tarek SAIER, "IIIF Curation: the concept, its development, and its potential impact on search and discovery", 2018 IIIF Conference, 2018年5月
- 北本 朝展, "IIIF Curation Viewerを用いたひまわり8号・9号気象衛星画像のキュレーション", 日本地球惑星科学連合(JpGU)2018年大会, No. MGI26-09, 2018年5月
- 鈴木 親彦, 髙岸 輝, 北本 朝展, "IIIF Curation Viewer が美術史にもたらす「細部」と「再現性」 絵入本・絵巻の作品比較を事例に", 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2017, pp. 157-164, 2017年12月
- 北本 朝展, "IIIF Curation Viewerの開発と利用", IIIF Japan シンポジウム〜デジタルアーカイブにおける画像公開の新潮流〜, 2017年10月
- Asanobu KITAMOTO, "Extending IIIF to curation and timeline: case studies in cultural heritage, humanities, and natural sciences", 2017 IIIF Conference, 2017年6月
- 北本 朝展, "IIIFを用いた時空間データへの多重解像度アクセスとひまわり8号データへの適用", 日本地球惑星科学連合(JpGU)2017年大会, No. MGI30-09, 2017年05月