顔貌コレクション(顔コレ)

顔貌コレクション(顔コレ)は、美術作品に出現する顔の部分を切り取って集め、それを美術史研究(特に様式研究)に活用するプロジェクトです。描き方から作者や工房の特徴を読み取りやすいため、顔貌表現は様式研究の重要な素材の一つです。日本の絵巻物を中心として古今東西の美術作品から顔貌を切り取って収集し、顔の描き方を比較検討することで、例えば絵師や工房の異同を推定したり、影響関係を見出したりすることが可能になります。現在は108作品から9675件を収集しています。

顔貌コレクション(顔コレ) - IIIF Curation Finderによる検索

顔コレデータセット - 機械学習のためのデータセット

AI顔貌検出サービス - 機械学習による顔貌検出サービス

顔貌コレクションの活用

顔貌コレクションは、美術作品に登場する顔の表現をIIIF Curation Platformを利用して収集し、様々な切り口で再編集可能にしています。現在は国文学研究資料館、京都大学貴重資料アーカイブ、慶應義塾大学メディアセンターで公開されている、室町時代末から近世初期に作られた絵本や絵巻物を中心に顔貌を収集し、基礎的なメタデータを付与しています。

たくさん切り取られた顔を眺め、気になったものをまとめていくだけでも面白いですが、美術史的な活用を試みると以下のような例を考えることができるでしょう。

1. 顔貌リスト(牛若丸)は、メタデータとして付与されたキーワードに従って比較を行える例です。下図で示すように、「牛若丸」のタグがつけられた顔貌をもとに、様々な作品の牛若丸の表現を比較することができます。ここでは二つの作品から弁慶が牛若丸に降参する場面を比べていますが、描写の細かさや服装などの違いが判るとともに、牛若丸のポーズや鎧姿の弁慶など実は共通点も多いことに気づかされます。

メタデータを活用して様々な作品の牛若丸を比較
(出典上:慶應義塾大学所蔵『辨慶物語』、下:京都大学附属図書館所蔵『弁慶物語』)

2. 顔貌リスト(酒呑童子)は、同一作品内での描き方の違いに注目して、絵師や工房の分業体制や後補などを推測できる例です。下図で示すように、慶應義塾大学所蔵の『酒呑童子』では、人物の描写が詳細なシーンと、風景には力が入っているものの人物表現はやや簡易なシーンが混ざっています。これは挿絵を担当した絵師・工房の分業体制、または挿絵の制作年代の違いを推測するためにポイントとなる情報です。

同一作品内の描き方の違いをもとに、二つの「キュレーション」を作成
(出典:慶應義塾大学所蔵『酒呑童子』)

3. 「しつか」「ふんせう」の類似顔貌は、複数の作品から類似性の高い顔貌を集め、一つのキュレーションにまとめた例です。様式研究の王道ともいえるやり方ですが、IIIF Curation Platformの力が発揮される方法でもあります。ここでは比較的簡易な描写ながらも類似性が高い二作品の顔貌からキュレーションを作っています。顔貌コレクション内には他にも簡易な顔貌表現を持つ作品がありますが、それぞれに特徴があります。この二作品ほど似ていないこともぜひ確認してみて下さい。

描き方をもとに、複数の作品から一つの「キュレーション」を作成
(出典上:慶應義塾大学所蔵『ふんせう』、下:国文学研究資料館所蔵『しつか』)

顔貌コレクションの今後

顔貌コレクションのユニークな試みとして、機械学習(人工知能)を用いた画像の自動タグ付けを導入しました。「tag」として表記されている英語のキーワードは、アルゴリズムが自動的に付与したタグです。ここでは、写真画像のタグ付けのために開発されたOpen Images Dataset V2というデータセットを学習した、ディープラーニングベースの分類アルゴリズムを活用しています。

このデータセットは顔貌コレクションのために開発されたものではないため、顔貌とは関係ないタグも混ざっています。一方、人間には思いつかないパターンを機械が読み取れる点からは、画像との予期しない出会い(セレンディピティ)につながる可能性も感じます。この結果を見ながら、機械学習は人文学研究にどう使えるのか(または使えないのか)について、考えを巡らせてみるのもよいかもしれません。

スタート時点では60点程度の作品にとどまりますが、さらに顔貌が充実していくことで、古今東西の顔貌が比較でき、これまで気づかなかった新たな発見につながることも考えられます。また、研究者の意見を収集するとともに、様々な専門的視点でのメタデータ付与や顔貌キュレーションの作成といった活動「みんなで顔コレ」を展開し、質量ともにさらに充実したものにしていければよいとも考えています。

ツイートによる追加説明

顔貌コレクションで利用したIIIFサービス

  1. 日本古典籍データセット(国文学研究資料館・CODH)
  2. 慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション(慶應義塾大学)
  3. 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ(京都大学附属図書館)

IIIF Curation Platformの活用

IIIF Curation Platformには、その他にも様々なツールがあります。例えばIIIF Curation Boardを使うことで、大規模な顔貌コレクションの様式分析が可能となります。IIIF Curation Platformの利用法についてはICPチュートリアルもご覧下さい。

メンバー

  • 総括:北本 朝展(ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター / 国立情報学研究所)
  • IIIF Curation Platform:本間 淳(フェリックス・スタイル)
  • キュレーション制作:鈴木 親彦(ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター / 国立情報学研究所)
  • 美術史研究:髙岸 輝(東京大学)

活用事例

  1. ないじぇる芸術共創ラボ「古典籍の”面白い顔”が仮面になる!」

関連プロジェクト

デジタル浮世絵研究

ニュース

2022-04-19

顔貌コレクション(顔コレ)が、システムの不具合により2週間以上にわたって停止していましたが、このたびサービスを再開しました。また作品数が108→109、顔貌数が9675→9683に増加しました。

2022-03-25

顔貌コレクション(顔コレ)のデータを更新し、作品数が99→108、顔貌数が8845→9675に増加しました。京都大学貴重資料デジタルアーカイブ「彩りの挿絵」で公開されている、お伽草子の挿絵を中心に追加しています。

2020-06-10

顔コレデータセットをv1.1に更新し、顔貌数が5,552→8,573件に増加しました。

2020-05-25

顔貌コレクション(顔コレ)のデータを更新し、作品数が64→99、顔貌数が5834→8845に増加しました。新着顔貌には、『源氏物語絵巻』『前九年軍記』『後三年合戦絵』など、有名作品の写本も含まれています。

2020-02-21

顔コレデータセットを公開しました。

2018-05-23

顔貌コレクションを公開しました。