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解説
「末摘花」は源氏物語の第六帖の巻名であり、源氏物語に登場する代表的な不美人の通称でもあります。
光源氏は皇族に連なりながらも父親を早く亡くし困窮する姫がいるという噂を聞き、高貴な姫に対する幻想を持って暗闇の中で関係を持ちますが、ある日初めて姫の顔を見たとき、その醜さに驚いてしまいます。しかし彼女の素直な性格と困窮した生活に同情して、面倒を見て行くことになります。
この不美人「末摘花」の君は、源氏物語の中でも容姿が細かく描写されている人物の一人です。紫式部が不美人をいかに細かく描写したかは是非本文をじっくり読んでください。
ではこの事細かに醜さが描写された末摘花を、日本の絵師はどう描いているのでしょうか。IIIF Curation Viewerでは複数の画像をリスト化して見て行くことができますので、日本古典籍データセットから作成したキュレーションリストで見て行くことにしましょう。
江戸時代前期の写本「源氏物語淡彩白描画」に描かれているのは(1)、大和絵で使われるオーソドックスな構図です。右手前に光源氏とライバルが描かれ、建物の中には琴を奏でる末摘花の君が描かれています。ズームして顔を見て見てもそれほど不美人という気はしません(2)。ほかの図で描かれている女性たちとそれほど違わないように思えます(3)。
とはいえ同じ構図と、たいして醜くはない末摘花の君は、江戸時代の版画による挿絵にしばしば登場します(4)。この刊本の隣のページには絶世の美女となる紫の上の若き日の姿も描かれていますが、大きな違いはないようです(5)。
錦絵を見て見てもこの傾向は変わりません。琴を弾く末摘花と光源氏をモチーフにしたこの作品でも(6)、彼女の顔の特徴は現れていないようです。鼻が大きく赤いということで、ズームして見ると確かに鼻が大きい気もしますが(7)、やはり他の登場人物をみると作者の女性の描き方がそうなのであって特徴ということではないようです(8)。
日本古典籍データセットの源氏関係の作品を見て行くと、末摘花に関してはもう一つの描き方があることがわかります。正しくいえば描き方ではありません、末摘花の顔を「描かない」という方法です。原作では、光源氏は手元で育てている幼い紫の上に絵を教えている時に、思わず末摘花の顔を描いてしまうというシーンがあります(9)。
本人が登場するシーンではなく、彼女について語られるシーンを描くことで、「不美人」描写を避けようとしたのかもしれません。ズームすると源氏の手元の紙は確かに女性らしいものが描かれていることもわかります(10)。
実際に同じような描き方は、幕末に活躍した画家の絵巻にも(11)、江戸時代の刊本にも見ることができます(12)(13)。ここまでくると美人の紫の上の顔も描いていないので(14)、絵師はかなり楽をしているようにも思えます。
日本の絵師にとって不美人を描くことは難しいのでしょうか。この辺りは美術史の専門家にキュレーションリストを活用してもらい、是非研究してほしい題材です。
出典
- [200003386] 源氏大和絵鑑
- [200003499] 源氏物語絵尽大意抄
- [200003510] 源氏物語五十四帖絵尽
- [200014696] 源氏物語絵巻
- [200014729] 源氏物語淡彩白描画
- [200015083] 源氏絵物語
- [200019740] 源氏物語絵屏風
ライセンス
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