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解説
絵画の中に描かれる絵画「画中画」は、ヨーロッパの絵画において重要な役割を果たす素材です。例えば肖像画では描かれた人物の職業や偉業、属性を表すために、持ち物や服装、背景などの要素が組み合わされます。人物を紹介するために架空の画中画が描かれることもあれば、コレクションの豊富さを示すために実際の絵画を画中画として描きこむこともあります。
Yale Center For British Artで公開されている、John Eardley Wilmotの肖像にその典型を見ることができます(1)。民訴裁判書の主席判事を努めたWilmotは、公正さと寛容さを感じさせる横顔で描かれています。背景にかかっている画中画に注目すると(2)、イギリスを象徴する女神ブリタニアが描かれており、手に天秤を持つ「正義」と十字架を持つキリスト教の伝統の擬人化(または聖母マリア)がそのマントを広げています。マントによってイギリスの法曹界の人々が守られ、大英帝国の統治下にあった諸国民もブリタニアを仰ぎ見ている様子が描かれています。ブリタニアに従い、またその栄光が伝わるさまを見守るように右端に立つ人物は、特徴的な鼻のフォルムと額からWilmot自身ではないかとも考えられます。この画中画は、法曹界の権威として、大英帝国に尽くした人物としてのWilmotを的確に表しているといえるでしょう。
やや時代を遡ったJohn Bacon一家を描いた集団肖像画(3)に描かれている画中画は、具体的な意味を持つものというよりはいわゆる風景画です(4)(5)。これはむしろ家族の豊かさを示すための背景の一部と考えることができるでしょう。このような画中画は肖像画のみではなく、室内の様子を描いた絵画にも登場します。British Institution(19世紀にあった私立の芸術家団体)を描いた作品(6)には、1832年の展覧会の様子が描かれています。画面右手に描かれているのは明らかにレンブラントによる「ルクレティアの最期」ですし(7)、画面左手にはポーズはティチアーノ風、服装はレグニール風の「マグダラのマリア」が描かれています(8)。こういった画中画を特定する研究も盛んですが、デジタル画像が十分に集まればAIによって同定が進む可能性もあります。
さて、目を東に移してみましょう。日本の典型的な肖像画ではあまり画中画を見ることはありません(9)。そもそも肖像画の位置づけが違ったという問題もありますし、江戸時代までは大型の絵画は屏風や襖絵、衝立(10)(11)などが中心であったという事情も影響してくるでしょう。
一方で、物語が描かれた際に、そこに描きこまれる屏風絵や襖絵などの画中画が、ストーリーの展開と結びついていることを指摘する研究もあります。例えば蝶と薄(すすき)が描かれた場合は、運命の儚さを示すといったものです。かぐや姫の物語である「竹取物語」(12)の中には、姫の登場するシーンに竹の描かれた屏風やふすまが配されたものがあります(13)(14)。
出典
- Yale Center For British Art
- http://collections.britishart.yale.edu/vufind/Record/1666586
- http://collections.britishart.yale.edu/vufind/Record/1670927
- http://collections.britishart.yale.edu/vufind/Record/1665595
- World Digital Library
- https://www.wdl.org/en/item/11828/
- https://www.wdl.org/en/item/15176/
- https://www.wdl.org/en/item/7354/
- 日本古典籍データセット
- http://codh.rois.ac.jp/pmjt/book/200014736/
ライセンス
『IIIFで見る画中画 東西を横断して』(情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 人文学オープンデータ共同利用センター編集)はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンス(CC BY-SA)の下に提供されています。
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『IIIFで見る画中画 東西を横断して』(CODH編集)
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