はじめに
古写真などの過去の写真は、画面上で眺めるだけでなく、現地に持ち出して現在の景観と同じ構図で撮り比べることで、景観の変化や場所にまつわる記憶を確かめる手がかりになります。同一構図撮影を支援するカメラアプリ メモリーグラフ は、基準となる写真をカメラのファインダー上に半透明で重ね、誰でも同じ地点・同じ構図の写真を撮れるようにする道具です。こうした撮影は、資料を実際の場所と結び直すフィールドワークとして、景観学習や観光、人文学研究で行われています。
ここでは、メモリーグラフを用いた5つの事例を参照します。
- 事例A:同一構図撮影を支援するアプリの開発経緯と、今昔写真など6種類の撮影の用途
- 事例B:京都市・飛騨市での景観学習。まちづくり団体、大学生、中学生との実践
- 事例C:長崎での古写真アプリの観光利用の実証実験と、参加者アンケートから得た知見
- 事例D:グラバー園開園50周年の関連事業として行った、古写真を使ったまち歩き
- 事例E:シルクロードのトルファン地区で、探検隊の古写真から遺跡を同定した調査
分野や担い手は異なりますが、写真の合わせ方、撮影の場の組み立て方、撮影がもたらすものについて、共通する型が見いだせます。
古写真と現在の景観の照合
過去の写真と現在の景観、また撮影の方角が異なる古写真どうしを重ね合わせる事例では、両者を対応づける手がかりとして、その場所の地形や歴史についての知識や、あらかじめ示された目印、写真に写った細部が用いられています。
- 事例A:同一構図に合わせるには景観を読む力が重要だとし、古写真と現在の間で変わったものと変わっていないものを判断できれば、変わっていない要素に合わせて構図を決められると述べています。地形のような変わりにくい要素や文化的景観の知識が、手がかりの発見を助けます。
- 事例B:京都の鉄道・バス写真データベースの構築では、専門の異なる研究者や市電の専門家、京都市役所の職員が議論しながら撮影場所を同定しました。北野線沿いにあったバスの車庫(もとは市電車庫)を知っていることが手がかりになるように、地域の知識が鍵を握ることもあります。
- 事例D:限られた時間で古写真と同じアングルに合わせるのは難しいため、写真上のどこにポイントを置けばよいかを示す印を、アプリ側に依頼して追加してもらい、参加者が印をヒントに古写真と重なる構図を探せるようにしました。
- 事例E:古写真・地図・衛星写真・遺構平面図を組み合わせて遺跡を同定しました。一帯がぶどう畑に変わった地点でも所在を探り当て、撮影の方角が異なる古写真どうし(ロシアの探検隊の写真との照合)では、壁面の崩れた箇所などの細部を突き合わせて対応点を見いだしています。
照合の手がかりは、画像を重ねるだけで得られるわけではありません。事例Aと事例Bはいずれも、変わっていない要素を見分けたり撮影場所を絞り込んだりするうえで、地形や地域についての知識が働くことを示しています。手がかりを担うものは事例によって異なり、事例A・事例B・事例Eでは照合する人自身の知識や調査が、事例Dではアプリ上にあらかじめ示された印が、その役割を果たしています。
照合によって、景観の大きな変化だけでなく、細かな変化や残された要素が見えてきます。事例Bでは、写真情報を知らない人にとって、撮影場所の同定作業は単なる事実確認にとどまらず、その場所への正確な理解や歴史的認識の深化につながり、地域の価値を再発見・再評価する機会になるとしています。事例Eは、遺構の環境が変わっていても所在地を特定できる情報は重要であり、所在がわからず発掘できない遺跡もあるなかで、写真による位置の確定が手がかりになると述べています。
現地で構図を合わせる撮影
撮影者自身が現地に足を運び、自らの位置を動かして構図を合わせる撮影には、ほかの手段では得られない意義が見いだされています。合わせた結果の写真は、その場所への理解を深めるとともに、主張を裏づける証拠にもなります。
- 事例A:メモリーグラフでは、カメラを動かしてもファインダー上の写真は変化せず、撮影者が写真と実世界の座標系の一致を能動的に探します。用意されたコンテンツを鑑賞する拡張現実(AR)とは異なる「参加」のためのツールと位置づけ、自分の身体を現地に移動させることに価値があるとしています。
- 事例B:まちづくり団体との実証実験で、Google ストリートビューでも今昔比較はできるものの、自ら構図を決めて撮る写真とは価値が異なり、現地でこそ土地の質感や細かな変化を感じ取れるという声がありました。
- 事例E:古写真とぴったり一致する構図で撮影できることが証拠能力を高めるとして、遺跡同定に用いました。報告書と現地の記録が食い違う地点では証拠となる写真を突き合わせて示し、もう残っていないと言われた遺跡では同一構図の写真で対応関係を確かめています。
事例Aと事例Bは、同一構図撮影を、それに近いほかの手段と比べて位置づけ、撮影者が自ら構図を探して合わせる点に違いを見ています。事例Eでは、言葉で説明しても理解を得にくい食い違いを、写真を突き合わせて示しています。目的は、事例A・事例Bでは場所の理解や体験、事例Eでは同定の証拠と異なりますが、いずれも現地に行かなければ撮れない写真を活動の拠り所にしています。
事例Aは、写真を、カメラが世界を記録したものではなく、撮影者のまなざしを記録したメディアとしてとらえ直す視点を示しています。場所と姿勢を合わせ、時間を超えて過去の撮影者の身体を再体験することで、より深い感動が得られると位置づけています。事例Eでは、同一構図の写真を撮る過程で、過去の撮影者である探検隊のメンバーが高い場所に登って撮影するのを好んでいたことがわかりました。一方、事例Eは、現地での調査の制約も報告しています。調査では、昼間の気温がおよそ50度に達するため調査できる時間が夕方から夜に限られ、アプリへのログインがうまくいかない、Googleのサインインを用いる方法が中国の環境では使いにくいといった問題にも直面しました。
解説と誘導を組み込んだ体験の設計
観光や学習の場で同一構図撮影を用いた事例は、アプリを渡すだけでなく、解説・誘導・事前の案内を組み合わせて体験を組み立てています。合わせる作業の難しさ(事例A)に対しては、撮影ポイントへの誘導(事例C)や、透過調整の案内などのアプリの更新(事例D)が用いられています。
- 事例B:大学生が企画したまち歩きでは、メモグラ・マネージャで作成したプロジェクトを使って歩き、メモグラ・ビューアで撮影結果を振り返る茶話会を行いました。参加者からは、古写真と同じアングルで撮り、豆知識を聞きながら歩くことで新しい視点でまち歩きができたという声が寄せられました。
- 事例C:参加者アンケートから、面白く感じてもらうには解説などの誘導点が重要であること、ある程度のところまでマニュアルやガイドで撮影ポイントへ誘導し模範解答を示すことが求められること、古写真と被写体が重なる最後の場面では細部にわたる誘導が必要であることを整理しています。
- 事例D:位置情報のオンなどの注意事項を応募段階で伝えて合意を得たうえで、当日は散策冊子を配り、アプリにない建物情報をガイドが紙のファイルで補いました。初めての参加者に向けて、道順表示や透過調整の案内も、アプリ側に依頼してイベント前に加えてもらっています。
事例Cは、古写真アプリは単体では機能を活かしきれず、解説や誘導、物語といった付加価値を加えることが欠かせないという見解を示しています。事例Bと事例Dでも、撮影はガイドや企画者による説明と組み合わせて行われています。誘導の担い手は、事例Bでは企画した大学生、事例Cではマニュアルやガイド、事例Dでは施設のスタッフと、事例によって異なります。
事例Dでは、各自が手元のスマホで古写真を見られるため、大きく印刷した写真をファイルで見せる進め方と比べて、参加者全員が細部を確認できるようになりました。撮影と散策の記録が手元に残り、当日のコースを後日アプリ上でたどり直して学習を深めることもできます。事例Bでは、企画した学生からも、自分たちでルートや写真を考えることで地域について深く考えるきっかけになったという声があり、体験を組み立てる側にも学びが生じています。注意点として、事例Dは、不特定多数が参加するイベントでは写真の共有をめぐる感覚に個人差があり、一律の共有設定では十分に対応できないことを報告しています。
写真を介した対話と記憶の共有
同一構図撮影の場は、参加者どうしや世代の異なる人どうしのやり取りを生み、写真をきっかけに地域の記憶が語られる場にもなっています。
- 事例B:まちづくり団体との実証実験では、スマホの扱いは若者が、地域の知識は高齢者が得意という交差する関係から、世代間のコミュニケーションのきっかけになりうるという意見が出ました。飛騨古川では、大学生が撮影場所を特定できなかった写真を託された中学生が、地域の人に聞き取りをして撮影場所を見つけてくる場面もありました。
- 事例D:操作に時間がかかる参加者に周囲が自然に教え合う協力の場面が生まれ、いい写真が撮れたときに見せ合うことで共有・共感も生まれました。以前この地域で暮らしていた参加者もおり、書籍や資料にはない記憶に基づく話で盛り上がっています。
写真は、事例Bでは地域の人に話を聞く手がかりに、事例Dでは参加者自身の思い出を語る手がかりになっています。やり取りの相手も、事例Bでは中学生が聞き取りをした地域の人、事例Dでは同じツアーの参加者やガイドスタッフと、事例によって異なります。事例Dは、こうしたやり取りを、ツアー形式で複数の参加者と一緒にアプリを使うこと自体から得られた手応えとして報告しています。
事例Bのまちづくり団体からは、高齢者福祉施設や同窓会・法事など人が集まる場で、昔話のツールとして使えるという意見も挙がりました。事例Dでも、70代の男性参加者の活き活きとした表情から、アプリが回想法のように昔の記憶をたどる手がかりとして機能する可能性が垣間見えたと報告しています。事例Bは、活動の結果としてアーカイブが整理されたり新しいアーカイブが生み出されたりする流れを重視し、景観学習の活動からコミュニティアーカイブへのつながりを展望しています。また事例Bは、写真展・インタビュー・トークイベントには、記憶を集める手法としてそれぞれ一長一短があることも示しています。
まとめ
同一構図撮影の事例では、写真を合わせる方法と、撮影を行う場の組み立て方の両方に工夫が見られます。地形や地域についての知識、あらかじめ示された目印、写真に写った細部を手がかりに過去と現在を照合し、撮影者自身が現地で構図を合わせて確かめることで、写真は場所への理解と証拠の両方になります。その撮影を観光や学習の体験として行う場では、解説や誘導、事前の案内を組み合わせて体験が組み立てられ、参加者どうしの教え合いや記憶の語りが生まれています。いずれの事例でも、アーカイブに収められた写真は、現地での撮影を通して、場所の理解、遺跡の同定、人どうしのやり取りといった形で、実際の場所と結び直されています。
参照ユースケース
事例A:メモリーグラフ:同一構図撮影支援アプリによるフィールドワークの可能性
同一構図撮影を支援するカメラアプリの開発経緯と多様な用途を紹介し、アプリを通して見えてくる「写真とは何か」という問いを論じています。
事例B:地域の記憶をたどる景観学習の実践〜今昔写真による町並み変化の体験的理解〜
京都市と飛騨市で、過去の景観写真を手がかりに町並みの変化を学ぶ活動を、写真展から中学生との協働まで段階的に広げてきた実践です。
事例C:メモリーグラフの観光利用における実証実験 ースマホで古写真ハンティングー
長崎の諏訪神社と外国人居留地で行った古写真アプリの観光利用の実証実験と、参加者アンケートから整理した観点を報告しています。
事例D:観光としての実施報告 - スマホで古写真ハンティング -
グラバー園の記念事業の関連企画として長崎で開いた古写真のまち歩きについて、運営の工夫、参加者どうしに生まれた手応え、残った課題をまとめています。
事例E:シルクロード踏査におけるメモリーグラフの効果:日中欧国際協力のケーススタディ
シルクロードのトルファン地区で、探検隊の古写真と現在の景観を照合し、かつての調査地点である遺跡を同定した国際協力の調査です。
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この記事は、複数のユースケースを基に生成AIを利用して作成したベストプラクティス記事です。