はじめに
第24回CODHセミナーにおいて、グラバー園学芸員 松田 恵氏が「観光としての実施報告 - スマホで古写真ハンティング -」と題して行った講演の記録です。グラバー園開園50周年の関連事業として、カメラアプリ「メモリーグラフ」を活用した街歩きを長崎で実施した経緯、運営の工夫、参加者からの手応え、残された課題までが報告されました。
グラバー園開園50周年記念事業と古写真展
本イベントは、グラバー園の開園50周年記念事業の関連企画として実施されました。グラバー園は外国人居留地の場所にある長崎市の観光施設で、姫野順一氏の監修のもとで古写真展を開催し、関連イベントを通じて長崎の歴史への関心を広げることを目指してきました。
グラバー園は観光地としてのイメージで認識されることが多く、古写真展に関心を寄せるのも年配の方が中心になりがちでした。そこで、若い層にも長崎の歴史や古写真の魅力に触れてもらうべく、ほぼ誰もが所持しているスマートフォンを使った街歩きを企画することにしました。姫野氏から、古写真と同じアングルで撮影できるカメラアプリ「メモリーグラフ」を活用するアイデアの紹介を受けて、2025年2月16日に関連イベント「スマホで古写真ハンティング」を実施しました。
イベントの企画と参加者募集
街歩きイベントとして、メモリーグラフ上で姫野氏が以前作成した「さるく居留地コース」を活用しました。ガイドがアプリのコースに沿って各ポイントで歴史を紹介し、参加者は説明を聞いた上でアプリ内の古写真と同じアングルで撮影、古写真と現在の風景を見比べながら次の目的地に移動する、所要時間2時間ほどの構成です。
応募はGoogleフォームに限定しました。本イベントはスマホでメモリーグラフを使うことが前提のため、Googleフォームを操作できる程度のスマホ利用力を応募段階で確認する意図があります。告知は新聞、グラバー園公式HP、公式SNS、長崎市公式LINEなどを使い分けました。最大30名想定に対し参加者は11名で、平均年齢48歳、最高齢77歳、最年少10歳、男性6名・女性5名という構成でした。参加のきっかけは古写真展のチラシ3名、メディア2名、公式SNS 2名、公式HP 3名、その他1名で、当日はグラバー園スタッフ3名で対応しています。
事前案内・配布冊子と街歩きの運営
観光施設として誰でも参加できるオープン型のイベントを実施した経験が少なかったことから、参加者への案内は入念に行いました。応募者には事前にメールで開催日時・集合場所・参加費(無料)、アプリの事前ダウンロード依頼、注意事項を送付しています。注意事項では、自分のスマホ持参、イベント中の位置情報オン、通信費は自己負担、小学生以下は保護者同伴、専用駐車場なしで公共交通機関の利用、といった点を伝えました。特に位置情報のオンに抵抗がある方が含まれると当日の運営が成立しないため、応募段階で合意形成しておく工夫です。
当日はA4用紙を2つ折りにした散策冊子も配布しました。アプリでは紹介しきれなかった古写真の見どころをテキストで解説し、参加者が家に持ち帰って読み直せる紙のお土産として機能させ、冒頭には当日の注意事項やスケジュール、メモリーグラフの紹介も盛り込んでいます。
当日のコースでは、大浦天主堂などのポイントで参加者が古写真と現在の建物を見比べながら撮影しました。観光客の往来が多い場所では、目印として緑色のジャンバーを着用したスタッフが安全に配慮しながら誘導しています。スマホに含まれない建物情報や周辺の魅力的な場所は、ガイドが紙のファイルでアナログに補いました。最後はグラバー園を一周して戻り終了し、当日は長崎新聞の取材も入って関連イベントの発信が行われました。
イベント運営に向けたアプリ機能の改善
イベント運営のためにアプリを事前に操作する中で、初めての参加者にとって分かりにくい点がいくつか見つかり、北本朝展氏に依頼してイベント前に3つの更新を加えてもらいました。
第一の更新は、目的地までの道順表示の追加です。街歩きや聖地巡礼で本アプリを使う場合、参加者は初めて訪れる場所が多くなります。更新前は地図上に古写真の位置がピンで示されるのみでしたが、現在地から目的地までのルートと所要時間(例:6分)が表示されるようになり、土地勘のない参加者でもスムーズに移動できるようになりました。
第二の更新は、撮影時の透過調整に関するガイダンスの追加です。古写真を半透明に重ねて現在の風景と合わせる操作は初見では分かりにくく、運営側でも事前準備で初めて気づいた経緯があります。そこで、指のジェスチャーを示す案内を画面上に追加し、初めてアプリを起動した参加者でも透過の調整方法を直感的に把握できるようにしました。
第三の更新は、撮影時のポイント表示機能です。限られた時間内に古写真と同じアングルで撮影するのは至難であるため、写真上のどこにポイントを置けば綺麗に撮影できるかを示す印を追加しました。カメラモード起動時に画面右下のインフォメーションのアイコンをタップすると、本コースの場合は古写真の参考情報と構図を合わせる目印が表示され、参加者は印をヒントに古写真と重なる構図を探しやすくなりました。
ツアー形式の実施で得られた手応えと相互作用
イベントを通じて、アプリ活用のメリットを3点確認しました。第一は、写真の内容を間近で見られる点です。長崎の街歩きイベントでは、ガイドが大きく印刷した写真をファイルで見せる進め方が一般的でしたが、参加人数や環境によっては全員が等しく見られないという課題がありました。スマホを各自が手元で操作することで、参加者全員が古写真の細部を確認できる構図に変わります。第二は、散策した記録を手元に残せる点で、アプリ上に撮影と散策の履歴が残るため、家族との話題や個人の振り返りに活用できます。第三は、個人的に後日散策できる点で、探求心から参加する方が当日のコースを後日アプリ上でたどり直し、学習を深める使い方ができます。
ツアー形式で複数の参加者と一緒にアプリを使うこと自体にも、思いがけない手応えがありました。初めて使うアプリで操作に時間がかかる参加者がいた際、周囲が自然に教え合う「協力」の場面が生まれ、本来は個人的な道具になりがちなスマホをめぐって学び合う空間が成立しました。どのあたりから撮影するとよいかという情報を参加者同士が自然に共有し、いい写真が撮れた時にお互いに見せ合うことで「共有・共感」も生まれました。
さらに、ガイドスタッフからはアプリに収録されていない古写真情報や、地元ならではの「ここだけの話」を伝える時間も生まれました。参加者の中には「以前この地域で暮らしていた」「親戚が暮らしていて通っていた」という方もおり、書籍や資料にはない記憶に基づく話で盛り上がりました。70代の男性参加者の活き活きとした表情からは、本アプリが回想法のように昔の記憶をたどる手がかりとしても機能する可能性が垣間見えました。
写真共有機能をめぐる課題と対応
イベント終了後、参加者の一人から、メモリーグラフのプロジェクト画面に他の人がアップロードした写真が表示されることに関する相談メールが届きました。相談内容は、相手の写真を自分の表示から消すことはできないか、というものでした。
不特定多数が参加するイベントでは、写真を共有したい・したくない、他の参加者の写真を知りたい・知りたくないといった感覚に個人差があり、一律の共有設定では十分に対応できないことがわかりました。そこで、個人単位で閲覧の範囲を制限できる設定が必要であると北本氏に伝えたところ、本セミナーが開催される前にアプリ側で「非表示」モードの機能が追加されました。これにより、今後同種の街歩きイベントで本アプリを用いる場合も、不特定多数の参加者が共存しやすい形で写真共有を運用できる見込みです。
長崎観光の文脈と聖地巡礼への展望
長崎には古写真が多く残されており、街中には現在も居留地時代の面影を留める建物や場所が点在しています。観光客の多くは、長崎らしさや異国情緒を感じてこの街を訪れますが、近年はこうした風景がドラマや映画、アニメのロケ地として採用され、聖地巡礼を兼ねた観光も増えています。長崎市公式サイトでも各ロケ地の紹介が掲載されています。
長崎ではこれまで多くの街歩きイベントを行ってきましたが、今回は誰しもが所持しているスマートフォンを使う新しい形の街歩きとなりました。今後は聖地巡礼で長崎を訪れる方に向けてメモリーグラフ上にコースを作成し、現在の風景とドラマや映画に使われた場面を比較できる仕組みを構想しています。最新の技術と古い街並みを掛け合わせることで、長崎の歴史への興味関心につながる新しい街歩きを生み出していきたいと考えています。
講演情報
- イベント:第24回CODHセミナー - カメラアプリ「メモリーグラフ」によるフィールドワークの展開〜地域文化資源、観光、防災、人文学研究への利用事例〜
- 講演日:2025-07-07
- 講演者:松田 恵(グラバー園)
- 資料:人文学研究データリポジトリ(doi:10.20676/00000461)
- 動画:YouTube
この記事は、講演記録を基に生成AIを利用して作成したユースケース記事です。