はじめに
本講演は、長崎大学名誉教授の 姫野順一 氏による、アンドロイド仕様のスマートフォンアプリ 「長崎古写真ハンティング」 を用いた観光利用の実証実験の報告です。コロナ前の2017年から2019年にかけて諏訪神社および外国人居留地で行った実験をもとに、古写真と現代の風景を重ね合わせるアプリ体験を観光に活用するうえで何が必要かを、参加者アンケートに即して整理しています。
古写真の観光利用と「メモリアルグラフ+リアル」の発想
古写真は、観光地の魅力を再発見し、過去と現在をつなぐストーリーを体験させるツールとして活用できる素材です。姫野氏は本講演の前半で、こうした観光利用の意義をAIの整理と対比しながら確認し、そのうえで自身が実証実験を通じて到達した「メモリアルグラフ+リアル」という発想を示しました。
姫野氏はGoogle AIに「古写真の観光利用」を尋ね、今昔写真の撮影体験や古写真スポット巡り、古写真展の開催、AR/VR技術との連携、SNS発信、地域住民との交流といった項目が整理され、長崎の事例として姫野氏自身の取り組みが言及されることを確認しました。
しかし姫野氏は、こうしたAIによる整理にとどまらず、自身の経験から 「メモリアルグラフ+リアル」、すなわち記憶記録としてのアプリ体験と現実空間でのフィールド体験を組み合わせることで、未来の地域空間を創造するインスピレーションが生まれる という見解を提示しました。古写真アプリは単体では機能を活かしきれず、解説や誘導、物語といった付加価値を加えることが、観光ツールとして機能させるうえで欠かせないという立場です。
「長崎古写真ハンティング」プロジェクトと実証実験
「長崎古写真ハンティング」は、姫野研究室が国立情報学研究所の北本研究室と共同で開発した携帯アプリで、長崎外国語大学のプロジェクト科目や、グラバー園・街歩きイベントでの実証実験に用いられました。
このアプリは、アプリを独立した形で構築できた時期に、国立情報学研究所の北本研究室 が技術面の構築を担い、姫野研究室が長崎の古写真を提供して作り込みました。アプリには、外国人居留地周遊コースと諏訪神社周遊コースという2つの周遊コースを設けています。姫野氏は長崎大学における古写真の収集を30年以上にわたり続けてきており(古写真に魅せられて30年(『ながさき経済』2019年6月))、古写真のアーカイブについては、長崎大学附属図書館 が公開する古写真アーカイブの参照を促しています。
長崎外国語大学では、このアプリを題材に プロジェクト科目「長崎古写真ハンティング実証実験」 を設置し、「インバウンド観光資源の探索とスマホによるスマート・ツーリズム」をテーマに掲げました。観光で使うSNSを考える、アプリの仕組みを理解する、長崎の古写真にどのようなものがあるかを調査する、観光にどう役立つかを考える、アプリを使ったイベントを企画する、といった取り組みを学生に呼びかけ、SNSを用いた観光(スマート・ツーリズム)の可能性と長崎の歴史的観光地の魅力を調査研究しました。
実証実験としては、2017年(平成29年)の グラバー園 での「古写真ハンティング」を皮切りに、観光客や学生、市民にアプリを使ってもらう試みを複数年にわたり実施しました。長崎国際観光コンベンション協会との協賛では、街歩きイベント 「学さるく」 にアプリを組み込み、観光客が古写真スポットを巡る体験として提供する取り組みも行いました。
「記憶」概念の整理:MH・MR・MGと「像覚」
姫野研究室では、古写真と現在の風景を重ね合わせる体験を、「記憶(memory)」の働きの観点から3つの局面に整理しています。
- MH(メモリアル・ハンティング/記憶探索):過去の古写真の当時の撮影場所を、現在の場所で探す行為
- MR(メモリアル・リアリティ/記憶現実):過去の古写真と現在の撮影場所を重ねることで、仮想的に過去の記憶を現実化する行為
- MG(メモリアル・グラフ/記憶記録):過去の古写真に重ね合わさる現在の写真を記録する行為
姫野研究室が開発してきたアプリとしては、長崎バージョンの 「長崎古写真ハンティング」(アンドロイド仕様)が先行し、その後、iPhone仕様に進化した汎用版アプリとして 「メモリーグラフ」 が登場しています。
これらの整理に加えて姫野氏は、視覚・触覚・知覚などの認識用語の体系に対し、影像の記憶を扱う認識概念として「像覚」 という用語を姫野研究室のブレインストーミングで提案しました。古写真を重ね合わせる体験が、既存の感覚語彙では捉えきれない独自の認識の局面を含むことを示すための試みです。
参加者アンケートから得られた知見
姫野氏は、複数年にわたる実証実験の参加者アンケートを通じて、古写真アプリを観光ツールとして機能させるうえで重要な観点を、学習・影像重複・物語・場所誘導・空間認識の5つのキーワードに整理しました。
- 学習:地域の古写真への関心は世代を超えて高いものの、面白く感じてもらうためには、解説や古写真から発見される事実などの「誘導点」が重要であること
- 影像重複:古写真と現在の写真を重ねることで生まれる発見を誘導し、そこから来る感動を呼び覚ます工夫が必要であること
- 物語:そのためには、ある程度のところまでマニュアルやガイドにより撮影ポイントを誘導し、模範解答を示してあげることが求められること
- 場所誘導:自由探索とコース探索のいずれを採用する場合でも、被写体と古写真が重なる最後の場面では、細部にわたる誘導が必要であること
- 空間認識:ランドマーク等の解説と重ね合わせることで、空間の理解と親和性、その場所への愛着が深まると考えられること
いずれの観点も、アプリの機能そのものよりも、アプリを介した観光体験を設計する側に求められる工夫にかかわるものです。
今後の展開
姫野氏は、今後の展開の可能性として2つの方向を挙げました。第一に、観光コンベンション協会およびDMOのなかでメモリアルグラフを観光開発のツールとして認知してもらい、地域の観光ツールとして活用していく方向です。この取り組みはコロナの影響で中断していました。第二に、被爆80年を迎える長崎において、原爆被災のビフォー・アフター を扱う教育啓発ツール、あるいは被爆地観光のフィールドツールとしての活用を探っていく方向です。
講演情報
- イベント:第24回CODHセミナー - カメラアプリ「メモリーグラフ」によるフィールドワークの展開〜地域文化資源、観光、防災、人文学研究への利用事例〜
- 講演日:2025-07-07
- 講演者:姫野 順一(長崎大学名誉教授)
- 講演資料:人文学研究データリポジトリ(プレゼン資料)
- 講演動画:YouTube
関連リンク
この記事は、講演記録を基に生成AIを利用して作成したユースケース記事です。