研究の出発点は、何を集めるかの判断にある。どこにあるかを知ること、横断的に探すこと、そして悉皆を目指すか標本でよいかを意識的に決めること——この三つが、後の分析の範囲と結論の射程を規定する。

機関をまたいで探す——横断検索の仕組みと前提

デジタルアーカイブの世界では、資料は一つの機関に集中していない。複数の機関が公開する日本文化関連のデジタル資料を横断的に検索可能にする仕組みとして、Cultural Japan のような取り組みがある。100万件におよぶデジタル資料を収集し検索できる状態にしていることが報告されている [UC-003 §Cultural Japan とセルフミュージアム]。この規模の横断収集を可能にしているのが、IIIF の相互運用性である——さまざまな機関が公開する画像を同一の技術で扱えるため、組織横断的かつ広域的な資料の発見と収集が現実的になった [UC-040 §知見と今後の展望]。IIIF の仕組みそのものについては「画像の流通基盤」を参照されたい。

機関横断的な検索にあたって実際的な制約となるのは、探し当てた資料がどのような形式で公開されているかである。IIIF に対応した機関のデータは横断的に扱いやすい一方、非対応の機関の資料は別途アクセス手段を確保する必要がある。また、多くのミュージアムやライブラリによる高解像度画像の公開が大規模なデータ収集の基盤となっている事実が指摘されており、データを公開する機関側の努力なしに研究者側の収集は成立しないことが前提として置かれている [UC-040 §知見と今後の展望]。

何を集めるかの判断——悉皆か標本か

資料を集める前に、どこまで集めるかを決めなければならない。この判断は、後の分析で何が言えるかを直接左右する。

写真資料を例にとると、京都の鉄道・バス写真データベースでは、立命館大学 ARC が所蔵する約9,200点の鉄道・バス写真を対象として構築されている [UC-005 §京都の鉄道・バス写真データベースの構築]。この場合、対象は「ARC 所蔵の当該写真」という形で範囲が定まっており、その範囲の中で悉皆的に収集する構成になっている。素材として市電写真を選んだ理由は明示されていて、車両・路線・背景から撮影場所や時代を特定しやすいこと、個人撮影ながらまとまったコレクションとして残されていることが多いこと、コミュニティから資料情報を得やすいことなどが挙げられている [UC-005 §京都の鉄道・バス写真データベースの構築]。資料を選ぶ段階での判断が、後の分析で何が問えるかを決定している。

空間データの構築においては、「何を同じエンティティとみなすか」の判断が難しく、そこに多くの労力がかかることが報告されている [UC-012 §大規模空間データセット構築の方針]。藩・村・都市・街道・海岸線を対象とした大規模空間データセットでは、どのようなエンティティが存在するかを特定して固有の ID を割り当てる作業を出発点としており、名称の表記ゆれや粒度の相違を吸収することも課題となる [UC-012 §大規模空間データセット構築の方針]。悉皆を目指す場合、「悉皆の対象が何か」を定義する作業そのものが研究の一部となる。

集めた範囲が結論を規定するということ

集めた範囲が後の結論を規定するという認識は、資料収集の設計段階で自覚的に持つ必要がある。

定量的・データ駆動型の研究では、この問題が特に鋭くなる。精読と遠読、定性的な方法と定量的な方法を目的に合わせて使い分ける知識の重要性が指摘されているが [UC-040 §知見と今後の展望]、どちらの手法をとるにしても、手元にある資料の集め方が分析の有効範囲を決める。

資料収集において専門的なコミュニティの知識が果たす役割も軽視できない。京都の市電写真の同定作業では、建築工学・人文学・情報学・文化財保護・市電の専門家・京都市役所職員が参加しており、地域の知識が撮影場所の特定に鍵を握る場面が報告されている [UC-005 §京都の鉄道・バス写真データベースの構築]。資料を「集める」行為は、しばしばこうした専門知識との協働によって初めて成立する。

データを集めた後の利活用を想定したとき、メタデータの設計が収集の段階から問われる。利用者の流通を想定するなら相互運用性を考慮した形式が必要になること、何のために付けるか・どの項目を対象とするかという論点が最初から存在することが整理されている [UC-021 §メタデータをめぐる論点:利用者・項目・専門性]。集めた資料にどのようなメタデータを付与するかは、その資料が後で誰にどう使われるかを左右する。メタデータ設計の詳細は「メタデータ」を参照されたい。