はじめに

本講演では、東京大学史料編纂所の中村覚氏が、IIIF Curation Platform(ICP)を活用した複数のデジタルアーカイブ構築事例を紹介します。中村氏は ICP の開発元である CODH とは別組織にいる一利用者という立場から、特にプログラム的・システム開発的な観点で ICP をどう使っているかに重点を置いて語ります。事例ごとの利用方法を読むことで、ICP の導入を検討している開発者や、周囲に開発者がいる研究者にとって、用途に応じた機能の使い分けの参考が得られるよう構成されています。

デジタルアーカイブの情報学的利活用と IIIF Curation Platform

冒頭では、デジタルアーカイブを情報学的に利活用するための枠組みが示されます。デジタルアーカイブを提供する側では、持続可能性、OSS(Open Source Software)、DOI(Digital Object Identifier)、利用条件・ライセンス(CC License、PDM(Public Domain Mark)等)といった話題が中心となります。一方、利用する側では、研究・教育、機械学習、人文情報学、オープンサイエンス、普及・啓蒙活動、展示会、電子展示、学術情報の流通、機関の横断、分野の横断といった多様な利用シーンが存在します。

この提供者と利用者をつなぐ情報学的な規格・技術として、メタデータには LOD(Linked Open Data)/RDF、テキストには TEI(Text Encoding Initiative)、画像には IIIF(International Image Interoperability Framework)が位置づけられます。本講演で扱う IIIF Curation Platform は、IIIF のうちキュレーション機能を中核に据えたツール群であり、以下では複数のデジタルアーカイブ・プロジェクトでの活用事例と、そこから派生する独自開発ツールを順に取り上げます。

『捃拾帖』内容検索システムと貼り込み資料の自動抽出

東京大学総合図書館「田中芳男・博物学コレクション」は、各ページにさまざまな資料が貼り込まれているのが特徴のスクラップブック群で、2018年8月に公開されました。貼り込み資料単位での検索・管理に対するニーズが生じており、ちょうどこの時期に IIIF Curation Platform が公開されたため、その活用が進められました。

電子展示『捃拾帖』では、切り出した画像のメタデータ管理に IIIF Curation API を採用しています。東京大学史料編纂所が別途保持していた貼り込み資料単位のメタデータと、図書館側が公開した画像を組み合わせるため、相応のプログラム的処理が必要となりました。サイト上で画像をクリックすると IIIF Curation Viewer Embedded による簡易表示が行われ、拡大表示ボタンで外部の IIIF Curation Player に遷移してメタデータと併せて表示するという形で、用途に応じた機能の使い分けを行っています。

人手でアノテーションを付与できたのは15冊分(826コマ・合計2,713件)にとどまりました。これを教師データとして深層学習による物体検出を行い、残りの大半の冊から貼り込み資料を機械的に切り出す試みを実施しています。機械学習のパイプラインでは、切り出した画像の確認や自動タグ付け結果の管理など、各段階の中間データを IIIF Curation API の形式で一元管理することにより、一連のフローを効率化しています。さらに、イエール大学のデジタルヒューマニティーズラボ(Yale DH Lab)が開発した PixPlot を用いた2次元平面上への画像配置(類似画像のクラスタリング可視化)にも、IIIF キュレーションリスト形式で記述したデータを入力に用いることで、可視化ツールへの再利用性を確保しています。

「デジタル源氏物語」と諸本比較支援

デジタル源氏物語」は、総合文化研究科の田村隆氏、人文情報学研究所の永崎研宣氏、東京大学の図書館関係者との共同研究です。『源氏物語』に関するさまざまな関連データを収集・作成し、それらを結びつけることで、『源氏物語』研究および古典籍を利用した教育・研究活動に資する環境の提供を目指しています。

東京大学総合図書館所蔵の『源氏物語』に限らず、九州大学をはじめ複数の機関で公開されている写本・版本を集約し、『校異源氏物語』を比較の基盤として諸本対照を行えるようにすることが第一の目的です。ベースとなる『校異源氏物語』のページをクリックすると、各諸本の対応箇所がマーカー表示で示される仕組みになっています。この対応関係は IIIF Curation API の形でデータが保持されており、複数マニフェストにまたがるアノテーションの集約に IIIF キュレーションリストが適していることを活かしています。

『校異源氏物語』の各ページと諸本画像の対応付け作業では、CODH が開発する KuroNet くずし字認識サービスを活用しています。各諸本のくずし字 OCR を行い、自動読み順推定アルゴリズムを用いて行単位のテキストデータを生成したうえで、人手でテキスト化した『校異源氏物語』各ページの先頭行との編集距離を計算します。これにより、機械が概ね90%程度の精度で対応箇所候補を提示し、IIIF Curation Viewer のマーカー表示モードを通じて人手による確認を行っています。また、『東大本』の脱文・錯簡リストのように、複数マニフェストにまたがる箇所情報の一元管理にもキュレーションリストを用い、Curation Viewer 上でリストを参照できるようにしています。

『ヒエラティック古書体学』データベース

『ヒエラティック古書体学(Hieratische Paläographie)』データベースは、東京大学アジア研究図書館関係の永井正勝氏らと共同で開発した事例です。対象は東京大学アジア研究図書館デジタルコレクションで公開されている Möller のヒエラティック字典であり、刊行から一世紀以上を経た現在もヒエラティックの学習・研究に必須の字典とされています。

Möller の字典には、文字番号がヒエログリフのそれと異なる体系であるため別途対応表が必要であること、文字の音価や子音転写から文字を引けないこと、1つの文字の解釈候補を探すのに複数のページを参照する必要があることといった課題がありました。本データベースでは、3巻(計4巻のうち)から行単位で2,000件強を抽出し、画像処理によって機械的に切り出した上で、ヒエラティック番号・ヒエログリフ番号などをメタデータとして管理しています。切り出した画像情報の一元管理には IIIF Curation API を用い、詳細画面では Curation Viewer Embedded、さらに詳しく見たいときは IIIF Curation Viewer へ遷移する形をとっています。

各行単位のアイテムを選択して比較する機能も提供しており、IIIF Curation API で切り出した画像を Mirador に流し込んで比較を行うことで、ヒエログリフでは類似していない文字(例として125番と600番の字形)がヒエラティックでは極めて類似しており、書記が両者を区別していなかった可能性を検証するといった研究活用の例が示されました。

シェリー書簡の透過光画像比較

東京大学総合図書館の貴重図書として所蔵されているパーシー・ビッシュ・シェリー(Percy Bysshe Shelley, 1792-1822)の手稿『Fragment of an Address to the Jews』では、紙にウォーターマーク(透かし)が入っていることが、シェリー研究の第一人者であった床尾辰男氏により指摘されていました。これを確認するため、撮影後に透かし模様が分かるよう透過光撮影を行い、透かしが見やすくなるよう加工した画像を作成・公開しています。

元画像と透過光画像を簡単に比較できる特設サイトでは、IIIF がレイヤーを重ねて画像を比較する機能をもつビューア(Mirador、神崎正英氏による Image Annotator 等)の一つとして、IIIF Curation Viewer Embedded を用いています。透過光画像によりイルカの透かしマークなどが明瞭に確認できるようになっています。

Cultural Japan とセルフミュージアム

Cultural Japan」は、NIIの高野氏らと進められている有志プロジェクトです。世界中の機関が公開する日本文化に関するデータを収集して検索可能にする仕組みで、100万件におよぶデジタル資料を扱います。収集したデータを視覚化・活用するアプリの一つに「セルフミュージアム」があり、3次元空間に集めた画像を配置できます。

セルフミュージアムの入力データ形式の一つとして、IIIF Curation API に対応したキュレーションリストの読み込みがサポートされています。これにより、IIIF Curation Viewer でデータを作成しビューアに読み込ませるだけで、プログラム的な前提知識を問わず利用可能となります。応用例として、2020年11月の東京大学総合図書館リニューアルに合わせて構築された「総合図書館バーチャルミュージアム」では、所蔵資料や『百鬼夜行図』から切り出した妖怪の画像をセルフミュージアム上に表示しています。各画像のインフォメーションマークから IIIF Curation Viewer へのリンクが用意され、元の絵巻物のどの箇所から切り出した画像かを閲覧できるようになっています。

また、Cultural Japan の検索システムには IIIF 対応アイテムの閲覧ビューアとして Curation Viewer とくずし字認識ビューアが組み込まれており、見つかった画像からワンクリックでくずし字認識ビューアに遷移する動線が用意されています。

東洋文庫『大明地理之図』

東洋文庫所蔵の『大明地理之図』は、未公開の情報を含むため以前のシンポジウムでの講演内容に基づいて紹介されました。非常に大きな一枚画像である地図を拡大縮小しながら閲覧でき、地名にアノテーションを付けて検索・表示できる仕組みが提供されています。

データの作成は IIIF Curation Viewer 上で行い、表示・検索には中村氏が独自に呼称する「IIIF Curation Map Search」と呼ばれるツールに読み込ませる構成です。これは IIIF Curation API に対応したデータであれば、『大明地理之図』に限らず、大きな一枚画像に対する大量のアノテーションの表示と検索に同様に利用できます。

オスマン・トルコ語文書群のデータ整理

歴史研究者との共同による「オスマン・トルコ語文書群のデータ整理」プロジェクトは、1,089点の史料を整理・読解していく試みです。本講演では時間の制約と、講演者自身が史料の専門ではないことから詳細には立ち入らず、データ構造化と表示・比較への ICP の関わりに焦点を当てました。

本プロジェクトではテキスト構造化に TEI を採用し、TEI 編集ツール Oxygen の機能を使って画像中の領域を囲み、その領域に対応するテキストを記述していきます。TEI で作成したデータはテキストと画像領域の対応情報を含むため、これを IIIF Curation API 形式に変換することで、Curation API に対応したビューアへ読み込ませることが可能になります。事例として、文書中のスタンプだけを並べて比較するといった、TEI からの派生利用が示されました。

ICP 関連の独自開発ツール

ここからは、中村氏が独自に開発しているツール群を紹介します。いずれも簡易なものという位置づけで、不具合等もあり得るため参考程度との但し書きが添えられています。

IIIF Converter は、IIIF プレゼンテーション API のアノテーション付きマニフェストと、IIIF Curation API のキュレーションリストとの相互変換ツールです。両者は大部分が相互変換可能であるという関係性を理解するための検証ツールという位置づけで、たとえば『百鬼夜行図』の妖怪をキュレーションしたデータを読み込むと、東京大学総合図書館・国文研・NDLの3件のマニフェストから構成される IIIF コレクションに変換されることが確認できます。逆方向では、東京帝國大學本部構内及農學部建物鳥瞰圖(東京大学農学生命科学図書館所蔵、昭和12年)のような、実物にアノテーションが付与されたマニフェストをキュレーションリストに変換し、それをセルフミュージアムへ読み込ませる、といった連携も可能です。

IIIF Curation Comparison は、キュレーションリストを読み込んで Mirador の比較画面に表示するツールで、複数機関で公開されている『百鬼夜行図』から同様の妖怪を比較する際などに用いられています。

TEI テキストと IIIF 画像の並行表示は、左にテキスト、右に画像を並べる画面構成のビューアです。画像表示部に Curation Viewer Embedded を用いることで、画像メタデータが TEI 側にあるような場合に画像表示のみに集中したい用途に適しています。

IIIF Multi Viewerは、IIIF Collection と IIIF Curation List を引数として、ファセット検索や画像比較を提供するブラウザ上のツールです。簡易な内容検索に有用ですが、ブラウザで動作するため大規模なコレクション全体の読み込みには向きません。

Rectangle Packing with IIIF Curation は、キュレーションリストに含まれる画像を1枚の紙面に敷き詰めるプログラムで、ビンパッキング問題に着想を得た「遊び」として位置づけられています。冒頭で紹介された『捃拾帖』のように、ある特定の紙面に画像を上手く並べるという発想を、任意のキュレーションリストに拡張したエンターテインメント的な活用例です。

まとめ:相互運用性と管理の容易さ

これまでの事例から、IIIF Curation Platform を利用する利点として2点が挙げられます。

第一に、相互運用性の高さです。切り出した画像の表示部分を IIIF Curation Viewer や ICEditor といった ICP が提供するツールに任せられるため、データ作成以外の検索・比較などのアプリケーション開発に注力できます。

第二に、管理の容易さです。複数の資料(IIIF マニフェスト)からそれぞれ切り出した画像領域を、メタデータとともに管理するという要件に対して、IIIF キュレーションリストの1ファイルのみで対応できます。データ管理の容易さは、長期保存にもつながる利点となります。

講演情報

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この記事は、講演記録を基に生成AIを利用して作成したユースケース記事です。