古地図や絵図を現代の地図に合わせるとは、画像上の点を地球上の位置に対応づけることである。測量にもとづく地図なら、幾何学的な変換でかなりの範囲を合わせられる。測量にもとづかない絵図は、位置関係をどこまで信じるかを決めたうえで、一点ずつ扱うことになる。

基準点を打って重ねる

古地図の位置合わせの基本はジオレファレンスである。古地図と現代地図のあいだに GCP(Ground Control Point、基準点)と呼ばれる対応点を打ち、対応点どうしができるだけ近づくように幾何学的な変換を求める [UC-011 §4. 江戸切絵図を現代地図に重ねる——地名抽出とジオレファレンス]。

基準点には、桜田門のような特徴的な地物や堀が曲がる地点が選ばれた。対応物が変化している場合は、現在残っている地物を探して合わせる。かつての堀が現在は外堀通りになっている例である [UC-011 §4. 江戸切絵図を現代地図に重ねる——地名抽出とジオレファレンス]。変換が済めば、古地図を現代地図や Google Earth に重ねられる。江戸切絵図では、東京駅周辺がかつて大名屋敷の区域であったことや、運河の名残が道路に変わった様子が読み取れた [UC-010 §江戸マップ──古地図からの地名抽出とジオリファレンス]。

江戸マップの作成では、位置合わせに先立つ作業がある。地図に描かれた地名の画像座標と翻刻を IIIF Curation Viewer で収集し、続いて切絵図と現代地図の間に基準点を設定して座標変換パラメータを得て、地名の画像座標から緯度経度を推定した [UC-044 §江戸マップ:江戸切絵図の地名を現代の地図に重ねる]。ジオレファレンスは、地名の翻刻という作業の上に載っている。

歪みの大きさをどう扱うか

変換だけでは合わない地図

江戸切絵図は全 29 枚で東京全体を覆うが、後ろの図ほど位置合わせが難しくなる。観光名所を一枚の枠に収めるために、距離も方向も大きく崩れているためである [UC-011 §4. 江戸切絵図を現代地図に重ねる——地名抽出とジオレファレンス]。巣鴨付近では、実際には遠い場所が近くに詰めて描かれていた。この地図は「この道を行けばここにたどり着く」というトポロジカルな関係としては正しく、距離と方位を歪めた地図として解釈すべきだという見方が示されている [UC-044 §江戸マップ:江戸切絵図の地名を現代の地図に重ねる]。

全体を一括で合わせると周辺ほど誤差が増える [UC-012 §江戸マップデータセット]。対処は二段階で行われた。まずジオレファレンスで地名の点をおおよその位置に合わせ、そのうえで一点ずつを現代地図と見比べながら正確な位置へ動かす。寺院が多く描かれた領域では、OpenStreetMap のほうが使いやすかった [UC-010 §江戸マップ──古地図からの地名抽出とジオリファレンス; #UC-044 §江戸マップ:江戸切絵図の地名を現代の地図に重ねる]。この作業を 29 枚すべてで行い、複数の図に現れる同一地名を統合した結果が江戸マップである [UC-044 §江戸マップ:江戸切絵図の地名を現代の地図に重ねる]。

測量地図でも誤差は残る

測量にもとづく地図にも誤差はある。伊能図は実測にもとづくが、測量は海沿いが中心で、測量した部分にもずれが見られる。そのため、岬の地点や村と街道の屈曲といった特徴を現代地図と対応づけて位置を合わせ、江戸時代の海岸線の推定に用いている [UC-011 §5. 江戸の地理空間データとその活用]。

スタインのシルクロードの地図では、描かれた緯度経度の線そのものがずれていた。誤差は場所によって数十 km に及び、特に経度方向で大きかった。経度はグリニッジとの時差から求めるため、砂漠で時計が狂いやすく、都市から離れるほど誤差が蓄積したのである。緯度経度の位置に GPS を頼りに行っても遺跡が見当たらなかったのは、遺跡が失われたからではなく、地図がずれていたからだった [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。

地図の誤りが、画像の取り違えに由来することもある。乾隆京城全図は、基準点が合わない箇所を寺院の位置などから調べると、5 枚のシートで配置が入れ替わっており、一枚の中で左右が逆転しているものもあった。撮影時のミスか、傷んだ地図の修復時の取り違えと考えられる [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。北京の城内は碁盤目状の道であるため、基準点だけでなく、線を線に対応づけて直線が直線として保たれる変換も開発された [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。ただつなげればよいのではなく、正しくつながるかを確認する必要があるというのが、この事例から引き出された教訓である。

幾何補正と一点合わせ

古地図を現代地図に重ねる方法は二つの方向に分かれる。

使い分けは精度の見極めで決まる。ある程度の精度のある測量地図には GCP のジオレファレンスが有効であり、歪みの大きい地図は、幾何変換すると可読性が大きく下がるため、歪めずに一点だけ合わせる方法が有効である。点データにとって、ジオレファレンスは出発点にすぎない [UC-011 §8. まとめ——不確かさと向き合う歴史GIS]。

誤差そのものを見せる道具として、一点だけ合わせるソフトウェア「マッピニング」が開発された。地点を選ぶと背景地図が動いてそこだけが合い、「この地点は約 5.6 km ずれている」といった誤差が表示される。ずれの向きへずらして合わせると、遺跡が見つかった [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。

測量に基づかない地図の扱い

絵図は、測量していないために合わせにくく、一点ずつ合わせる必要がある [UC-011 §8. まとめ——不確かさと向き合う歴史GIS]。江戸切絵図の後半の図は、座標を信じず、トポロジカルマップ(位相的な地図)として読む対象になる。ロンドン地下鉄路線図のように、距離や方位が正しくなくても、駅の順序や乗り換え場所といった接続関係が保たれていればよい地図である [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。

不正確な地図が貴重な情報を持つこともある。シルクロードでスタインと同じ地域を調査したグリュンヴェーデルの地図は、位置や方位がずれている。しかし、調査した遺跡と、そこから出土した壁画・壺などの遺物が結びつけて記されている。この地図では、位置や方位を直接は信じず、描かれた道や壁の位置関係を正しいものとして読み、写真の位置関係も併用しながら、もっともらしい解釈を組み立てた。こうして、ほとんどの遺跡を同定できた [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。

道具とサービス

古地図の位置合わせには、次のような道具とサービスが使われている [UC-011 §6. 古地図の位置合わせ手法とソフトウェア]。

道具 特徴
日本版 Map Warper 立命館大学が公開するサービス。画像をアップロードして対応点を打つと位置合わせができる。OpenStreetMap を土台に、多くの人が地図を持ち寄って合わせられる。江戸切絵図でも使用
Georeferencer 地図収集家デイビッド・ラムジーのコレクションに付随する仕組み。ブラウザ上で点を打って合わせるほか、三次元的な重ね合わせもできる
Allmaps IIIF に対応し、IIIF で公開された地図を取り込んで位置合わせする。複雑な GIS の基盤や XYZ 形式のタイル生成を必要とせず、IIIF サーバーさえあれば動く。複数ページの紙をつないで一枚の地図にすることもできる
Maplat 一点合わせに近く、イラストマップや路線図のように絵のように描かれた空間表現を扱う。位置関係が逆転しないよう同相変換を行い、三角形に分割したり線を線に変換したりして、もとの線が保たれるようにする

IIIF は位置合わせの前段にも使われる。江戸切絵図は国立国会図書館デジタルコレクションで IIIF 形式で公開されており、IIIF Curation Viewer を使うと、地図上の各地点にマーカーを立てて地名を記録できる [UC-011 §4. 江戸切絵図を現代地図に重ねる——地名抽出とジオレファレンス]。大きな一枚画像に大量のアノテーションを付ける場合も、IIIF Curation API に対応したデータであれば、表示と検索のツールを共通に使える。東洋文庫『大明地理之図』では、IIIF Curation Viewer で作成したデータを、アノテーションの表示と検索を行うツールに読み込ませる構成が取られている [UC-003 §東洋文庫『大明地理之図』]。

公開されている成果物

位置合わせの成果は、データセットや地図サービスとして公開されている。