Agentic DH(エージェンティック・デジタル人文学)とは、デジタル人文学の次の段階として、AIとの協働に基づく研究スタイルを表現する言葉として、以下のエッセイで提案したものです。
北本 朝展,
"人文学はAIの指揮者になれるか―Agentic DH時代の到来",
ふみ,
No. 24, pp. 1-2, 2026年6月
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概要 ― 5つのポイント
自律的に作業を進めるAIエージェント(Agentic AI)との協働を基盤とする、新しいデジタル人文学(DH)の研究スタイル。 研究者はAIを「指揮」し、そこから生まれた成果物に責任を持つ「指揮者」として立つ。
- 定義:Agentic AIとの協働に基づく研究スタイル。研究者は作業を丸投げするのではなく、AIを指揮し、成果物に責任を持つ「指揮者」となる。
- 「Agentic」を冠する理由:Agentic AIとの協働は、単なるツールの追加ではなく、DHという方法論そのものの見直しに行き着く。
- パラダイムの転回:焦点が「アナログ‐デジタル軸」から「人間‐AI軸」へと移る。
- 鍵は主体性(agency):的確な指示と対話のコントロールを行う、自律的・意志的な行為者としての人文学者が前提となる。
- 人材育成の課題:この主体性をどう獲得するかが教育の中心課題。科学の「AI for Science」に対し、人文学は「AI for Humanities」を正面から構想する。
パラダイムの転回 ― アナログ‐デジタル軸から人間‐AI軸へ
現在のDHは、人間によるアナログ作業を人間によるデジタル作業へと更新する時代に始まった。
これに対して Agentic DH(ADH)の課題は、人間によるデジタル作業を、AIによるデジタル作業へと更新することにある。
アナログ‐デジタル軸が焦点だったDHから、デジタルを前提として人間‐AI軸へと転回するADHへ。 いま、そのパラダイムが大きく変革する時期が到来している。
鍵となる概念
指揮者(Conductor)
自律的に作業を進めるAIエージェントを指揮し、そこから生まれた成果物に責任を持つ存在。 Agentic DH時代の研究者の類型の一つ。作業の多くをAIが担っても、何を・どう指揮し、結果をどう検証したかに研究者の主体が宿る。
主体性(Agency)
AIを使いこなすには、丸投げではなく、的確な指示と対話のコントロールが不可欠となる。 それを可能にするのは、自律的な行為者・意志をもつ行為者(agent)としての人文学者がAIを指揮する能力である。 さらに次の3つの能力を備えるほど、より高いレベルでAIを指揮できる。
- 自分たちの研究に適したAIを開発する能力
- AIの出力を批判的に評価する能力
- 社会の中でAIが進化する方向に影響を与える能力
AI for Humanities
科学領域では「AI for Science」という学術トレンドが急速に広がっている。 人文学領域でも、これと並ぶかたちで「AI for Humanities」を正面から構想すべき時期に来ている。 Agentic DH時代の到来は、既存のDHプロジェクトの方法論を再考する契機となる。
背景 ― この10年の変化
生成AIの普及は、研究方法そのものを大きく変えた。 たとえばプログラミングでは、かつてコードはすべて手打ちだったが、AIコーディングエージェントの登場により、 人間がプロンプトで指示すると、手打ちに比べて桁違いのスピードでAIがコードを生成するようになった。 これにより、まとまった集中時間を取りにくいシニア研究者でも、隙間時間でプロジェクトを推進できるようになっている。
一方で、研究支援・研究自動化の進展は論文数の激増と質の低下を同時に招き、査読システムに負荷をかけている。 「ほとんどの作業をAIが進めたとき、研究者は何を研究したと言えるのか」という研究者のアイデンティティの問いも生じる。 とりわけ、人手による丹念な作業を成果の著者性の根拠としてきた人文学において、この問いは大きな意味を持つ。
関連イベント・シンポジウム
2026-08-07
DiHuCoハブシンポジウム2026 Agentic DHに向けて~人文学×AIの多様化とAI協働型研究の広がり