はじめに

機関がインターネット上に公開した画像資料は、そのまま閲覧するだけでなく、必要な部分を取り出して研究の材料に組み替えられる対象になっています。IIIF(International Image Interoperability Framework)は、様々なサイトが公開する画像を同じビューアで閲覧できるようにする国際的な画像配信方式であり、この相互運用性を利用者の側から活かすためのソフトウェア群が IIIF Curation Platform(ICP) です。ICPは「キュレーション」という方法論をIIIFの世界に導入するもので、キュレーションとは、あるテーマに沿ってコンテンツを集め、適切な順番に並べ、新たなコンテンツとして提示・共有する活動を指します。ここで対象とするのは、ICPを用いて画像資料の一部分を集め、メタデータを付けて研究や教育に用いた3件の実践です。

  • 事例A:ICPを構成するツール群の全体像と、機能ごとの利活用のしかたを難易度別のレシピとして扱った事例
  • 事例B:美術作品の顔貌を集めたデータベースを軸に、研究・教育・グループワークへの応用を扱った事例
  • 事例C:複数のデジタルアーカイブ構築プロジェクトで、ICPをシステム開発の部品として用いた事例

立場も対象資料も異なる3件ですが、いずれも同じプラットフォームを用いた実践であり、画像資料の扱い方に共通する型が見いだせます。

画像は複製せず領域とメタデータを持つ

3事例はいずれも、元の画像ファイルを手元に複製せず、提供機関がIIIFで公開している画像を参照したうえで、切り出した部分領域とそこに付けたメタデータだけを自分たちのデータとして持ちます。集める対象は資料の全体ではなく資料の一部分であり、部分がそのままアイテムとして扱われます。

  • 事例A:古地図に適用した 江戸マップβ版 では、もとの地図画像である国立国会図書館デジタルコレクションの江戸切絵図をコピーせず、国立国会図書館にアクセスして取得し、その上に重ねる町名や施設名のオーバーレイ情報だけを作成しています。利用者が独自に付加情報を作って公開し、もとのデータは提供元から取得するという使い方の例です。
  • 事例B顔貌コレクション(顔コレ) は、様々な機関がIIIFで公開している美術作品から顔貌部分を収集したサービスです。各機関のWebサイトに置かれたIIIFマニフェストをビューアに読み込み、矩形選択で顔貌を一つずつ囲みながら、切り取った領域が溜まっていくキュレーションリストに登録していく手順をとり、2021年2月時点で299作品・8,845顔貌が収録され、そのすべてにメタデータが付与されています。
  • 事例C:スクラップブック群である 田中芳男・博物学コレクション の電子展示『捃拾帖』では、東京大学総合図書館が公開した画像と、東京大学史料編纂所が別途保持していた貼り込み資料単位のメタデータを組み合わせています。複数の資料(IIIFマニフェスト)からそれぞれ切り出した画像領域をメタデータとともに管理するという要件に、IIIFキュレーションリスト1ファイルのみで対応できる点が、管理の容易さとして挙げられています。

この構成では、所蔵機関の異なる資料を一つのリストにまとめられます。デジタル源氏物語 では複数の機関で公開されている『源氏物語』の写本・版本を集約しており、複数マニフェストにまたがるアノテーションの集約にキュレーションリストが適していることを活かしています(事例C)。前提となるのは、対象の画像が提供機関からIIIFで公開されていることです。切り取る対象は顔貌のような人物表現に限られず、江戸時代の買物情報や観光情報を整理した試みも同じ枠組みで公開されています(事例B)。

工程ごとにツールを使い分ける

切り出し・編集・管理・検索・整理・展示といった工程を、役割の異なるツールに分担させる構成が、3件の実践に共通しています。各ツールは同じキュレーションのデータ形式を介してつながっており、一つの画面ですべてを行うのではなく、目的に応じてツールを切り替えます。

  • 事例A:IIIF Curation Viewerで矩形領域を切り取ってキュレーションリストに溜め、JSON形式のデータを保存・提供するJSONkeeperに保存し、一覧・編集・削除はIIIF Curation Manager、個別のメタデータの追加や変更はIIIF Curation Editor、展示はIIIF Curation Playerが担う、という分担が示されています。切り取った領域を外部サービスに送る機能も備え、送り先は設定ファイルの差し替えで変更できます。
  • 事例B:顔コレはICPのほぼ全機能を用いて構築されており、Viewerでの切り取りとメタデータ付与、Editorでの名前付けとメタデータ項目の一括挿入、Managerでのグループ作業管理、IIIF Curation Finderでの検索と派生キュレーションの作成、IIIF Curation Boardでの平面上の整理というように、工程ごとにツールを切り替えています。グループワーク「キュレーソン」では、IIIF Curation Editorのdescription項目に記述した文章を、IIIF Curation Playerでキュレーションを読み込む際に画像とともに表示する使い方も示されています。
  • 事例C:電子展示『捃拾帖』では、画像をクリックするとIIIF Curation Viewer Embeddedによる簡易表示が行われ、拡大表示ボタンで外部のIIIF Curation Playerに遷移してメタデータと併せて表示します。『ヒエラティック古書体学』データベースでも表示ツールを使い分けており、詳細画面ではCuration Viewer Embedded、さらに詳しく見たいときはIIIF Curation Viewerへ遷移する形をとったうえで、行単位のアイテムの比較にはMiradorを用いています。

切り出した画像の表示を既存のツールに任せられるため、データ作成以外の検索・比較などのアプリケーション開発に注力できます(事例C)。一方でツールごとに担える範囲は限られ、IIIF Curation Editorは大規模な編集作業には向かないことが注意点として挙げられています(事例A)。利用環境にはデモ環境を使う方法、クライアントだけを設置する方法、サーバも自前で立てる方法があり、プロジェクト専用環境を構築するDocker版では、ポートやProxyの設定が分かる程度のサーバー管理知識とDockerの基本知識が必要ですが、それほど高度な知識がなくても十分に対応できる範囲だと述べられています(事例B)。

機械の認識結果を人手の確認に戻す

機械学習による認識の結果をそのまま成果とせず、ビューア上で原資料と重ねて表示したり座標として取り込んだりして、人が確認・修正できる状態に戻す構成を、どの事例も組み込んでいます。人手の作業と機械処理は一方向の流れではなく、互いの入力になっています。

  • 事例AKuroNetくずし字認識サービス は囲った領域内のくずし字をすべて認識する多文字認識サービスで、認識結果はIIIF Curation Viewerの文字マーカーで表示され、もとの文字と比較しながら読めます。透明度や表示位置・サイズは利用者が変更でき、KuroNet Text Editorを使えば、文字の読み順を行内・行間で手動指定してテキスト化できます。
  • 事例B:顔コレデータセットの応用として、顔コレに含まれない未知の絵巻物を機械学習で読み込ませ、画面のどの座標に人の顔があるかを自動認識させる試みが行われています。その結果をIIIF Curation Viewerに取り込むために「選択サイズ座標入力」機能が用意されており、座標値を直接入力して画面上の任意の位置を矩形選択できます。
  • 事例C:『捃拾帖』では、人手でアノテーションを付与できた15冊分(826コマ・合計2,713件)を教師データとして深層学習による物体検出を行い、残りの大半の冊から貼り込み資料を機械的に切り出す試みを実施しています。デジタル源氏物語では、くずし字OCRと自動読み順推定アルゴリズムで生成した行単位テキストと、人手でテキスト化した『校異源氏物語』各ページの先頭行との編集距離を計算し、概ね90%程度の精度で提示された対応箇所候補を、マーカー表示モードで人手確認しています。

この往復によって、人手だけでは扱いにくい規模へ作業を広げながら、結果を原資料に照らして確かめられます。成立の条件となるのは、機械の出力を受け取る側の機能がビューアに用意されていること(事例B)と、初期の人手作業が教師データとして使える形で残っていること(事例C)です。『捃拾帖』の機械学習のパイプラインでは、切り出した画像の確認や自動タグ付け結果の管理といった各段階の中間データも、IIIF Curation APIの形式で一元管理されています(事例C)。

まとめ

3つの型は独立した工夫ではなく、一つの構図の異なる面として結びついています。元画像を複製せず部分領域とメタデータだけを持つというデータの持ち方が、そのまま共通の受け渡し口になり、工程ごとに別のツールへ渡す分担も、機械の認識結果をビューアに戻す往復も、この受け渡し口を経由して成り立っています。裏返せば、どの単位で切り出しどのメタデータを与えるかという最初の設計が、その後の検索・整理・機械処理で何ができるかを方向づける関係にあります。

参照ユースケース

事例A:IIIFのポテンシャルを引き出すIIIF Curation Platform利活用アイデア

IIIF Curation Platformを構成するソフトウェア群の全体像と、閲覧・キュレーション・エクスポート・アノテーションという機能ごとの利活用のしかたを、難易度別のレシピとして紹介した講演の記録です。利用者側の視点をIIIFに持ち込むという開発の出発点から、機関を越えた付加情報の公開やデータ構造化への発展までが扱われています。

事例B:人文学マイクロコンテンツ研究ツールとしての IIIF Curation Platform

美術作品の顔貌を収集した顔貌コレクション(顔コレ)の構築ワークフローを軸に、メタデータ付与、検索と派生キュレーションの作成、機械学習との連携、絵巻の様式分析への応用を扱った講演の記録です。グループワーク「キュレーソン」や美術史教育プログラム、利用環境の選び方も紹介されています。

事例C:IIIF Curation Platformを用いたデジタルアーカイブの活用

スクラップブック、写本、字典、書簡など複数のデジタルアーカイブ構築プロジェクトで、IIIF Curation Platformをシステム開発の部品として用いた事例を扱った講演の記録です。切り出した画像の一元管理と、Miradorや可視化ツールなど外部ツールへの受け渡し、独自に開発した変換・比較ツールが紹介されています。

講演情報

関連リンク


この記事は、複数のユースケースを基に生成AIを利用して作成したベストプラクティス記事です。