研究者が地域の人と一緒に現地で何かをするとき、参加の設計、現場で起きること、研究が受け取るものは切り離せない。ここでは、京都、長崎、飛騨古川で古写真と同一構図撮影を携えて行われた実践から、これらが互いにどう結びつくかを整理する。

誰を誘い、何を持ち込むか——参加の入口の設計

参加の設計は、持ち込む素材と誘う相手の組み合わせで性格が決まる。

京都の活動は「京都の鉄道・バス写真データベース」という既存のデジタルアーカイブを起点に、展示会・まち歩き・セミナーを並行させ、成果をアーカイブへ戻す循環として組み立てられた [UC-005 §活動のフレームワークと展開]。対象は、初期の不特定の来場者・地域住民から、のちにまちづくり団体・大学生・中学生へと段階的に絞られている [UC-005 §活動のフレームワークと展開]。

長崎のグラバー園では出発点が逆だった。開園50周年の古写真展が先にあり、関心を寄せるのが年配の方に偏りがちだったため、若い層へ広げる手段としてスマートフォンによる街歩きを後から接続した [UC-030 §グラバー園開園50周年記念事業と古写真展]。応募を Google フォームに限ったのは、フォームを操作できる程度のスマホ利用力を応募段階で確かめる意図による [UC-030 §イベントの企画と参加者募集]。位置情報のオンを前提とするため、これに抵抗のある参加者が混ざると当日の運営が成り立たない。そこで注意事項を事前にメールで伝え、応募の時点で合意を取っている [UC-030 §事前案内・配布冊子と街歩きの運営]。告知は新聞・公式 HP・公式 SNS・市公式 LINE を使い分け、最大30名の想定に対して参加者は11名(平均年齢48歳、最年少10歳、最高齢77歳)だった [UC-030 §イベントの企画と参加者募集]。

観光施設として誰でも参加できるオープン型のイベントを行った経験が少なかったため、案内は入念に行われた。当日は、アプリで紹介しきれない見どころを書いた散策冊子を配り、持ち帰って読み直せる紙のお土産とした [UC-030 §事前案内・配布冊子と街歩きの運営]。

現地で起きること——教え合い、引き出される記憶、身体で得る理解

現場で起きることの多くは、設計の段階では見通せない。

グラバー園のツアーでは、操作に手間取る参加者がいると周囲が自然に教え合い、本来は個人的な道具になりがちなスマートフォンをめぐって学び合う場が生まれた [UC-030 §ツアー形式の実施で得られた手応えと相互作用]。どの辺りから撮るとよいかを参加者同士が共有し、うまく撮れた写真は互いに見せ合われた [UC-030 §ツアー形式の実施で得られた手応えと相互作用]。

京都のまちづくり団体での実証実験では、教える側と教わる側が交差することが指摘された。スマートフォンの扱いは若者が得意で高齢者は苦手だが、地域の知識は逆に高齢者が豊富で若者は知らない。この組み合わせが世代間の会話のきっかけになりうるという [UC-005 §まちづくり団体を対象としたメモリーグラフの実証実験]。飛騨古川では、大学生が撮影場所を特定できなかった写真を「SOS」として中学生に託し、生徒が地域の人に聞き取りをして場所を見つけてくる場面があった [UC-005 §飛騨古川での中学生との景観学習プロジェクト]。髙橋氏は、中学生だからできないことはなく、むしろ教えてもらうことも多かったと振り返る [UC-005 §飛騨古川での中学生との景観学習プロジェクト]。

記憶が現場で引き出されることもある。グラバー園では、「以前この地域で暮らしていた」「親戚が暮らしていて通っていた」という参加者が、書籍や資料にない記憶に基づく話を始めた [UC-030 §ツアー形式の実施で得られた手応えと相互作用]。70代男性の活き活きとした表情から、アプリが昔の記憶をたどる回想法のような手がかりとしても働く可能性が示唆された [UC-030 §ツアー形式の実施で得られた手応えと相互作用]。

身体を運ぶことの意味は、まちづくり団体の声に表れている。Google ストリートビューでも今昔比較はできるが、車で流して撮るのと、自分で構図を決めて撮るのとでは写真の価値が異なり、現地でこそ土地の質感や細かな変化を感じ取れるという [UC-005 §まちづくり団体を対象としたメモリーグラフの実証実験]。重要伝統的建造物群保存地区の祇園新橋では、全体の印象は変わらなくても細部には多くの変化があり、所有者の努力で美しさが保たれていることに気づいた参加者がいた [UC-005 §まちづくり団体を対象としたメモリーグラフの実証実験]。同一構図撮影を通じて景観を「読む」体験は、何が変わり何が変わっていないかを実感を伴って理解させる点で、撮影に参加する人にとってもユニークな経験になるとされる。ただしその読み取りは、場所についての知識に左右される [UC-016 §景観を「読む」ための新しい技術]。

受け手から主体へ——地域を捉え、自分の立脚地として結び直す

参加者が受け手にとどまらない構造は、地域を学ぶ営みの捉え方と結びついている。髙橋氏が引く廣瀬隆人の整理では、地域を学ぶ営みには、暮らしの場を科学的・体系的に捉える側面、地域を知って再評価し暮らしやすく変えるエネルギーを育てる側面、自分の住む町を学んでその地に生きる意味を見出す主体形成の側面がある [UC-005 §景観と地域学習の捉え方]。景観写真から景観を読み解く体験は、自らの立脚地としての地域と自らを結び直す体験につながると位置づけられている [UC-005 §景観と地域学習の捉え方]。

この構造は、企画する側に回ることで具体化した。京都の大学生は、企画から運営までを担う景観学習イベントで、ルートや写真を自分たちで考える過程が「より深く地域について考えるきっかけ」になったと述べた。参加した学生にも、古写真と同じアングルで撮り豆知識を聞きながら歩くことで新しい視点でまち歩きができたという声があった [UC-005 §大学生による景観学習イベントの企画・実践]。企画・参加のどちらの立場でも、地域への向き合い方が変わる経験になっている。

飛騨古川の中学生は、第3回のワークショップで自分たちの「マイタウントレイル」を作り、第4回では大学生と並んで取り組みを発表し、地域の人を実際に案内した [UC-005 §飛騨古川での中学生との景観学習プロジェクト]。この活動は古川中学校のマイプロジェクト(地域貢献の課外授業)の一環で、自分で調べたことを他の人に紹介できるようになることを目指している [UC-005 §飛騨古川での中学生との景観学習プロジェクト]。調べる側から地域を説明する側へ立ち位置が移る場が、プログラムの中に組み込まれている。

地域を変えるエネルギーに通じる気づきもある。古写真と現在を比べると、アスファルト舗装が石畳に変わるなど質を高める工事に気づけ、「良かった過去」だけでなくまちづくり活動の成果としての「良くなった今」も見えてくる [UC-005 §まちづくり団体を対象としたメモリーグラフの実証実験]。長く住む人には新鮮さを感じにくい地域の成り立ちを、新しく移り住んだ人や観光客に伝えるツールとして使いたいという意見も出た [UC-005 §まちづくり団体を対象としたメモリーグラフの実証実験]。

連携とそこで生じる摩擦

地域の組織との連携は、活動の継続性と到達範囲を左右し、同時に調整の負担も生む。

京都では、デジタルアーカイブの専門組織である立命館大学アート・リサーチセンター(ARC)と組んだことで、継続的な公開と管理、技術的なサポート、既存システムの流用による経費と時間の削減が可能になった [UC-005 §京都の鉄道・バス写真データベースの構築]。研究チームには、建築工学系・人文系・情報学系の研究者に加えて文化財保護の専門家、市電の専門家、京都市役所の職員が入り、撮影場所の同定を議論しながら進めた [UC-005 §京都の鉄道・バス写真データベースの構築]。

一方、まちづくり団体との実証実験では、古写真の収集と整理の手間、サーバー管理を含む費用や人手、責任の所在が運営上の課題として挙がった [UC-005 §まちづくり団体を対象としたメモリーグラフの実証実験]。これに対しては、収集や整理の過程そのものをまちづくり活動の一部とみなす可能性や、写真にストーリーを添えてまち歩きの切り口を増やす提案が出ている [UC-005 §まちづくり団体を対象としたメモリーグラフの実証実験]。

グラバー園では、イベント後に参加者から、他の人の写真が自分の画面に表示されることへの相談が届いた。写真を共有したいかどうかには個人差があり、一律の設定では足りないと分かったため、開発側に個人単位で閲覧範囲を制限できる設定が求められ、「非表示」モードが追加された [UC-030 §写真共有機能をめぐる課題と対応]。運営現場の経験が、アプリの仕様変更として返った例である。

飛騨古川は、飛騨市役所まちづくり観光課、飛騨市立古川中学校、大阪大学、新潟大学、CODH が協力する体制で進み、学校の課外授業の枠組みで研究と教育を接続している [UC-005 §飛騨古川での中学生との景観学習プロジェクト]。

研究と催し・授業の両立——記憶収集の形式をどう選ぶか

研究として成り立たせることと、催しや授業として成り立たせることは、形式の選択で折り合いをつける。

記憶を集める形式には、それぞれ得手不得手がある。写真展は不特定多数から断片を集められるが、双方向のやり取りがないため情報の深度が浅くなりやすい。インタビューは深く集められるが、対象にできる人数が限られる。トークイベントは会場とのやり取りで思い出を引き出し一体感も生むが、情報発信の場としての性格が強く、アーカイブの価値を伝えるのに向く反面、情報収集にはあまり向かない [UC-005 §デジタルアーカイブを活用したイベントの開催]。どの形式でも収集した記憶は写真資料のメタデータの充実に使える可能性があり、浅く広い形式と深く狭い形式を組み合わせて使い分けることになる [UC-005 §デジタルアーカイブを活用したイベントの開催]。

体験の設計については、姫野研究室の複数年の実証実験が、観光ツールとして機能させるための観点を学習・影像重複・物語・場所誘導・空間認識の5つに整理している。面白く感じてもらうには解説や古写真から発見される事実といった「誘導点」が重要で、自由探索でもコース探索でも、古写真と現在が重なる最後の場面では細部にわたる誘導が要るという [UC-006 §参加者アンケートから得られた知見]。これらはアプリの機能そのものより、アプリを介した体験をどう設計するかにかかわる工夫である [UC-006 §参加者アンケートから得られた知見]。

グラバー園の事例は、この両立が運営の細部で支えられることを示す。ガイドが各ポイントで歴史を説明し、参加者が古写真と同じアングルで撮影して見比べる約2時間の構成にして、各自が手元で古写真の細部を見られるようにした。アプリに収録されていない情報は、ガイドが紙のファイルでアナログに補った [UC-030 §事前案内・配布冊子と街歩きの運営]。

研究の側が地域から受け取るもの

地域に出ることで研究の側が得るものは、資料や知見にとどまらない。

まず、同定の手がかりがある。京都のデータベースでは、北野線沿いにあったバス車庫の存在を知っていることが撮影場所を突き止める手がかりになるように、地域の知識が同定の鍵を握ることがある [UC-005 §京都の鉄道・バス写真データベースの構築]。

次に、記録に残らない記憶がある。グラバー園の参加者は、書籍や資料にない記憶に基づく話を語った [UC-030 §ツアー形式の実施で得られた手応えと相互作用]。ガイドスタッフ側からも、アプリに収録されていない古写真の情報や地元ならではの「ここだけの話」を伝える時間が生まれた [UC-030 §ツアー形式の実施で得られた手応えと相互作用]。

さらに、運営の現場が道具そのものを変える。グラバー園の運営準備では、初めての参加者にとって分かりにくい点が見つかり、道順表示、透過調整のガイダンス、撮影時のポイント表示という3つの更新がイベント前にアプリへ加えられた [UC-030 §イベント運営に向けたアプリ機能の改善]。

髙橋氏は、デジタルアーカイブされた資料をどう実世界とつないでいくかという問いに、「活動」の共有を答えとして挙げる。活動の結果としてアーカイブが整理され、新しいアーカイブが生まれる流れが重要だという [UC-005 §知見と展望]。