IIIF(International Image Interoperability Framework)は、高品質で出典の明らかなデジタル資料を大規模にオンライン配信するためのオープン標準であり、同時にその API を開発・実装する国際コミュニティの名でもある。標準の策定は主要な文化機関のコンソーシアムが支えている 1。様々なサイトが HTML で公開するページを同じブラウザで閲覧できるのと同様に、様々なサイトが IIIF で公開する画像を同じビューアで閲覧できる。この比喩は、IIIF がミュージアムやライブラリで急速に普及した理由を端的に示している [UC-001 §IIIF Curation Platformとは何か]。
Image API と Presentation API という二本柱
画像の配信を担うのが Image API である。Image API は、HTTP または HTTPS のリクエストに対して画像を返すウェブサービスを定める。URI のパス部分にリージョン・サイズ・回転・品質・フォーマットを指定すると、元画像からその条件の画像が返る。画像そのものとは別に、画像の技術的な情報を返すリクエストも用意されている。クエリパラメータではなくパス部分に情報を載せるため、サーバでも一般的なウェブのキャッシュ基盤でも応答を保存しやすい 1。この仕様が想定するのは、文化遺産機関が維持するデジタル画像リポジトリで画像資源を体系的に再利用することである 1。現行の安定版は3.0.0である 1。
Presentation API は、画像をどう提示するかの情報を担う。複合的なデジタル資料を人間に見せる豊かなオンライン閲覧環境のために必要な情報を提供することが、唯一の目的である。記述情報は人間が読むための形で与えられ、機械が意味を取り出せる形にはなっていない。検索エンジンによる索引化に使えるメタデータの提供は、仕様の対象外と明言されている 2。この API が運ぶ情報のまとまりがマニフェストである。デジタルアーカイブが公開する IIIF 画像には、機関のウェブサイト上にマニフェストが置かれており、ビューアにそれをドラッグ&ドロップするだけで作品を読み込める [UC-041 §顔コレの構築過程]。
閲覧方向の扱いは、この仕組みの利点をよく示す。和書は右から左、洋書は左から右へページをめくるが、IIIF には閲覧方向(viewingDirection)を指定する機能があるため、同じビューアでどちらも閲覧できる [UC-001 §IIIF画像の閲覧]。
マニフェストを起点にした機関横断の閲覧
マニフェストには、複数ページの順序、閲覧方向、表示すべきメタデータといった閲覧に必要な記述が収まる。機関をまたぐ画像の参照と組み合わせは、このファイルを出発点にする。
「デジタル源氏物語」は、東京大学総合図書館所蔵の写本に限らず、九州大学など複数機関が公開する写本・版本をマニフェスト単位で集約し、諸本を対照できる環境を作っている。複数マニフェストにまたがるアノテーションの集約には IIIF キュレーションリストが適しており、Curation API 形式でデータを保持することで複数機関の資料を一覧できる [UC-003 §「デジタル源氏物語」と諸本比較支援]。Mirador、Universal Viewer、IIIF Curation Viewer といったビューアはいずれも同じ仕様に準拠するため、用途に応じて選べる [UC-040 §IIIFとキュレーションによる画像収集]。
画像を複製しない機関横断的な利用
相互運用性がもたらす実践上の変化の一つは、元画像を手元に複製しなくてよいことである。画像は提供機関のサーバから直接取得し、その上に重ねる付加情報だけを自前で用意する、という分離が成り立つ。
江戸マップβ版は、国立国会図書館デジタルコレクションの江戸切絵図をコピーせず、同館にアクセスして画像を取得し、重ねる町名や施設名のオーバーレイ情報だけを作成している [UC-001 §地図へのアノテーション]。顔貌コレクション(顔コレ)も同じ構成で、各機関が IIIF で公開する美術作品のマニフェストをビューアに読み込み、矩形選択で顔貌を囲んでキュレーションリストに登録する。2021年2月時点で299作品・8,845顔貌のすべてにメタデータが付与されたが、各機関の画像は提供元に置かれたままである [BP-001 §画像は複製せず領域とメタデータを持つ]。
ただし、これには前提がある。対象の画像が提供機関から IIIF で公開されていなければ、この構成は成り立たない [BP-001 §画像は複製せず領域とメタデータを持つ]。IIIF に対応しないアーカイブはこの流通基盤から外れ、それがむしろ「不便」とみなされる時代が近づいているという観察もある [UC-001 §IIIFの相互運用性とICPの独自性]。
共通形式がもたらす変化
IIIF が世界中に普及した理由として、画像提供者に共通するニーズに応えた点が挙げられている。共通の形式でデータを公開して相互運用性を担保するというニーズである [UC-001 §IIIFの相互運用性とICPの独自性]。各種ツールが IIIF を前提とするにつれ、日本でも他国でも同じ技術でデータを集められるようになり、組織横断的かつ全球的な大規模データ収集の基盤になった [UC-040 §知見と今後の展望]。
その効果はツール選択の自由度に表れる。IIIF Curation Platform で作ったキュレーションリストのデータは、同プラットフォームのツール群に閉じず、Mirador など他のソフトウェアからも使える [UC-001 §ICPの高度な利用]。捃拾帖の事例では、切り出した画像の表示を既存ツールに任せられるため、検索や比較などデータ作成以外のアプリケーション開発に注力できたと報告されている [UC-003 §まとめ:相互運用性と管理の容易さ]。
一方、画像を並べて見るために揃えるべきことは、仕様の側にも残る。IIIF の公式仕様は画像の「提供者側」の視点で書かれており、「利用者側」の視点は標準の外にある [UC-001 §キュレーションプラットフォームとキュレーションAPIの区別]。メタデータの収集や発見のための仕組みも Presentation API の対象外である 2。機関をまたいで資料を並べて見るには、まず共通形式で公開されていることが前提になり、そのうえでマニフェストの所在をどう把握するかという別の仕組みが要る。この点の詳細は「資料をさがす・集める」を参照。
参考資料
[1] Image API 3.0 — IIIF | International Image Interoperability Framework. https://iiif.io/api/image/3.0/, 取得日 2026-08-07 [2] Presentation API 3.0 — IIIF | International Image Interoperability Framework. https://iiif.io/api/presentation/3.0/, 取得日 2026-08-07