画像資料は、全体を複製して抱え込むのではなく、一部だけを切り出して集め直すことで新しい資料になる。その中心には、切り出した領域を並べて比べ、検索し、派生させる一連の作業がある。この節では、何を単位に切るか、何を記述するか、そして検索・集計・派生の仕組みがこの作業をどう支えるかを述べる。

切り出しの単位とキュレーションリスト

切り出しの単位は、資料の全体ではなく画像上の矩形領域である。IIIF Curation Viewer で矩形選択により領域を囲み、キュレーションリストに登録していく。顔貌コレクション(顔コレ)は、各機関の Web サイトにある IIIF のマニフェストをビューアに読み込み、顔貌を一つずつ囲んで集めたものである [UC-002 §顔コレ構築のワークフロー]。2021年2月時点で299作品・8,845顔貌が収録されている [UC-002 §顔貌コレクション(顔コレ)とは]。

キュレーションリストが記述するのは、領域の座標とメタデータだけである。元の画像は提供機関が IIIF で公開しているものを参照するだけで、手元に複製しない [BP-001 §画像は複製せず領域とメタデータを持つ]。単位は顔貌に限られない。江戸時代の買物情報を整理した江戸買物案内では広告や版面を、観光情報を整理した江戸観光案内では名所の画像を切り出している [UC-041 §ICPを活用した展開]。

複数の機関の資料から切り出した領域も、一つのリストにまとめられる。『デジタル源氏物語』は、複数の機関が公開する写本・版本にまたがるアノテーションを、キュレーションリストで集約している [BP-001 §画像は複製せず領域とメタデータを持つ]。

アノテーションとメタデータの付与

切り出した領域に付けるメタデータが、集め直した画像を検索できる資料に変える。顔コレでは、性別・身分・顔の向き・原典・所蔵機関などの項目を、すべての顔貌に統一して付けている [UC-041 §顔貌コレクション(顔コレ)とは]。項目をそろえて付けるから、後から検索や集計ができる。

メタデータの付与には、資料の専門知識が欠かせない。素人には単なる男性の顔にしか見えない顔貌でも、美術史の観点から見れば、鬼の正体を現す前の酒呑童子だと分かる。専門家がその語を付与することで、複数の絵巻をまたいで酒呑童子の顔貌を集められる [UC-041 §顔コレの構築過程]。

8,000を超える顔貌に項目を一つずつ入力するのは負担が大きい。そこで顔コレでは、IIIF Curation Editor でキュレーションの JSON を開き、空のメタデータ項目を一括置換で挿入している [UC-002 §顔コレ構築のワークフロー]。

マイクロコンテンツ化とは

デジタル化された資料の一部を特定の目的と粒度で整理し直し、研究に使える形にすることを、研究チームはマイクロコンテンツ化と呼ぶ。ワークフローは、IIIF に則ってデジタル化された資料から部分を抽出・収集し、メタデータを付与したうえで、IIIF Curation Finder や IIIF Curation Board を通じて横断検索・一覧化・研究活用につなげる流れである [UC-002 §人文学資料のマイクロコンテンツ化]。

この手法には GM 法という名前も付いている。顔貌を切り抜いてメタデータを付与し、平面上に並べて整理する一連の作業を指す。写真カードを並べ替え、分類し直してきたアナログの様式分析をデジタル上で大規模化・効率化したものだとされる。名称は、様式研究の泰斗 Giovanni Morelli と、切り取った部分を見る Gazing Microcontents のダブルミーニングである [UC-041 §手法の一般化としてのGM法]。切り出した部分を機械的に分析して様式を比べる段階は、「特徴抽出と様式分析」を参照。

多人数で集める

切り出し作業は、複数人で分担すると進みがよい。顔コレは複数の作業者が分担して構築しており、IIIF Curation Manager でグループ作業を管理している。作業者はメールアドレスと任意のパスワードでログインする。Google や Facebook のアカウントでログインすると、個人アカウントを管理側が把握することになるためである [UC-002 §顔コレ構築のワークフロー]。

参加者が集まって一斉にキュレーションするイベントがキュレーソン(Curathon)である。参加者に基本操作を説明し、自由にキュレーションしてもらい、互いに解説し合う。絵巻ゼミでは、髷に注目したキュレーションや背景の植物に注目したキュレーションなど、同じ研究室の中でも視点の異なる成果が生まれた [UC-002 §キュレーソン:ICPを使ったグループワーク]。大人数で行い、後日成果をまとめるときは、運営側が共通のアカウントを用意して全員にそれでログインしてもらう。成果が一つのアカウントに集まり、まとめて公開できる [UC-002 §キュレーソン:ICPを使ったグループワーク]。

検索・集計・派生の仕組み

横断検索と索引化

集め直した部分を検索できるようにするのが、IIIF Curation Finder と Canvas Indexer である。Canvas Indexer は JSONkeeper のデータをクロールし、キャンバス単位に分解して検索可能にする。Finder は、その上で検索する画面にあたる [UC-001 §ICPの高度な利用]。顔コレでは、メタデータの Label「身分」に紐づく Value「化身」を選ぶと、仏・鬼・怪物などの顔貌を作品をまたいで一覧でき、表示単位はキャンバス(個々の顔貌)とキュレーション(作品単位)から選べる [UC-002 §メタデータ検索と派生キュレーションの作成]。ただし、JSONkeeper に保存しただけでは検索できない。検索には、Finder 側の設定が別途必要である [UC-001 §IIIF画像のキュレーション]。

統計的な集計

検索の裏側では、searchEndpointUrl と facetsEndpointUrl を呼び出すと、データを機械的に取得できる。searchEndpointUrl からは画像とメタデータの一覧が、facetsEndpointUrl からは付与されたメタデータの一覧と各値の付与数が得られる [UC-002 §メタデータ検索と派生キュレーションの作成]。この付与数が、統計的な確認に使われる。講演時点の顔貌は8,845件で、男女比では男性が圧倒的に多く、顔の向きでは真横でも真正面でもない斜めが圧倒的に多いことが数として確認できた [UC-041 §顔コレの活用]。美術に携わる人が直感的に感じていることを、数量で確かめる助けになる。

派生キュレーションの作成

派生キュレーションは、Finder の検索結果から作る。結果の「+」ボタンで気になる顔貌をリストに登録し、エクスポートすると、新しいキュレーションができる。複数の作品から似た顔貌を集めて比べる、古典的な様式分析の手法に対応する作業である [UC-002 §メタデータ検索と派生キュレーションの作成]。

教育では、この手順を学生が追体験している。『石山寺縁起絵巻』専用の顔コレを構築して検索用のメタデータを付与し、Finder を立ち上げた。学生は、先行研究が比較対象とした顔貌を提示され、検索で『石山寺縁起絵巻』の中から典型として近い顔貌を探し、結果を派生キュレーションとしてグループごとに共有した [UC-002 §『石山寺縁起絵巻』を用いた美術史教育プログラム]。

検索・集計・派生が支えるもの

検索・集計・派生は、一続きの作業になっている。メタデータを付けて検索できる状態にし、検索結果を数で確かめ、気になった顔貌を拾い上げて新しいキュレーションに組み替える。この手順があるから、一度切り出した部分は、元のリストを離れて何度でも別の問いに使える。