地誌とは、ある地域に何があり、何が営まれているかを記した資料の総称である。ここでは、どんな資料が地誌として使えるのか、そこに何が記されているのか、そこから何を取り出せるのか、そして地理情報とどう結びつくのかを順に述べる。

地図と地誌——幾何のデータとメディアのデータ

地理に関係する情報は、地図・地誌・地名の三つに分けて整理されている。地図は点やポリゴンなどの幾何的なデータであり、地誌はテキストや画像などのメディアデータである [UC-033 §地図・地誌・地名の枠組みと識別子付与の方針]。地誌では地理情報が地名として言及されることが多く、地名は地図上に表示でき、文章中でも言及できる [UC-033 §地図・地誌・地名の枠組みと識別子付与の方針]。地図は座標で場所を示し、地誌は名前で場所を指す。この二つをつなぐのが地名である。地名がどう両者を接続するかの定式化は「地名という接点」(geo-toponym)を参照。

どんな資料が地誌として使えるのか

地誌の類型としては、名所図会・地域誌・案内記・買物案内・武鑑などが挙げられる。この節に紐づく記事で具体的に確認できるのは、次の二種類にとどまる。

一つは名所図会である。名所図会は江戸時代のガイドブックで、『江戸名所図会』には飯田町の中坂や九段坂(現在の千代田区)が描かれている [UC-045 §POIを選び]。もう一つは辞書型の地名資料である。平凡社の『日本歴史地名大系』は、現在は失われた地名も含み、地名の名称・位置・読みと、辞書独自の詳細な解説とからなる [UC-010 §地名・村のデータセット]。前者は図と文で場所を紹介する資料、後者は地名を項目として並べる資料であり、地誌の中にも性格の異なる資料があることがわかる。

そこに何が記されているのか

名所図会のような資料には、場所の名前と姿が記される。れきちずのPOI(地点)は、国絵図や名所図会などに記載されているものを中心に選定されている。選定の恣意性をできるだけ避けるためで、関所、宿場、城、神社、寺、橋、茶屋など、江戸時代のさまざまな地物が収録されている [UC-045 §POIを選び]。

地誌に記されていることには偏りがある。当時人気だった場所と現在有名な場所は必ずしも一致せず、浮世絵や講の記録などから当時の賑わいを読み取って、当時の観光地にあたる場所も採っている。例として、大山に参詣する大山詣りの人々を描いた浮世絵が挙げられている [UC-045 §POIを選び]。

資料のカバー範囲にも偏りがある。江戸や東海道のように名所図会などの資料が充実している地域がある一方、そうした資料がない地域もある。この地域ごとの偏りは課題として挙げられている [UC-045 §POIを選び]。地誌から集めた地点の分布は、当時の実態そのものではなく、資料が残した範囲を反映するものとして読む必要がある。

そこから何を取り出せるのか

地誌からは、地点の名前と分類を取り出せる。分類には判断を要する場面がある。神社か寺か、城か陣屋かといった区別に悩むことがあり、神社か寺かについては、当時は両者がそれほどはっきり分かれていなかったことが理由として挙げられている [UC-045 §POIを選び]。現代の分類を過去の資料に当てはめるときの注意点である。

資料にもとづいて取り出した地点は、表示の優先度を付けて地図に載せられる。表示順を制御するランクを付け、低いズームでは成田山や関所など重要度の高いPOIを、高いズームでは継立場や村名なども表示する [UC-045 §POIを選び]。

街道や宿場は、地名辞書型の資料から取り出されている。『日本歴史地名大系』の宿場の記述を街道IDごとにリスト化して宿場IDを付与したのが江戸宿場データセットで、東海道の品川宿はR001-002となる [UC-044 §地名・街道・宿場のデータセット]。文献によって街道の名称が異なっても、IDで管理すれば同じ街道として扱えるので、移動のデータを扱うときに便利である [UC-044 §地名・街道・宿場のデータセット]。地誌の記述から、IDを備えたデータ項目が取り出されている例である。

地理情報とどう結びつくか

地誌と地理情報は、地名に識別子を与えることで結びつく。江戸宿場データセットでは、宿場の記述に宿場IDが、街道に街道IDが与えられ、地誌の記述がIDを介して地図上の街道や宿場に対応づけられる [UC-044 §地名・街道・宿場のデータセット]。江戸切絵図に描かれた地名も、江戸マップ地名IDや汎用的なGeoLOD IDを付けた地名データとして切り出され、それによって切絵図上の記述を現代の位置に対応づけられる [UC-044 §江戸マップ:江戸切絵図の地名を現代の地図に重ねる]。位置合わせの手順は「地図資料の処理」(geo-oldmap)を参照。地名に識別子を与えて一元管理することは、地誌と地理情報を結ぶ手段である [UC-033 §地図・地誌・地名の枠組みと識別子付与の方針]。何を同じエンティティとみなすかといった識別子付与の判断は、「地名という接点」(geo-toponym)を参照。

こうして地誌から取り出した地点は、現代の地図に重ねて使える。重ね合わせの実例は「地図資料の処理」(geo-oldmap)を参照。