写真が「どこで」「いつ」撮られたかを問うとき、それは視覚資料の空間的な文脈づけという問題になる。古写真を地図と照合して過去の景観を再現する試み、同一構図撮影アプリによる市民参加型の通時的記録、そしてIIIF画像へ地理的注釈を付与する実践は、いずれもこの問いへの異なるアプローチである。
古写真をどこに「置く」か:共時的写真の空間的文脈づけ
写真は都市の一部を切り取るにすぎず、街並みを連続的に記録したものではない。そのため、個々の写真を場所に対応づけることが解釈の前提になる。しかしその対応づけの粒度は事例によって大きく異なる。
華北交通(North China Railway)が1937年から1945年にかけて撮影した3万5千点を超えるストックフォトのアーカイブでは、GPT-4oを用いたAIタグが各写真に付与され、「cityscape」などのタグで過去の都市景観を検索できる [UC-016 §North China Railwayの写真アーカイブとAIタグによる検索]。しかし写真への場所の対応づけは元資料のメタデータに基づく「駅」単位にとどまり、住所のような地点レベルには達していない。過去の景観を再現する用途には十分でないとKitamoto氏は述べている [UC-016 §North China Railwayの写真アーカイブとAIタグによる検索]。
地点レベルの対応づけを実現した事例が、北京を対象とした共時的写真(synchronic photographs)の試みである。まず『乾隆京城全図』(幅13メートル・高さ14メートル、全203枚、290億画素)をジオレファレンスで北京城壁内全域にマッピングし、その地図を手がかりとして1900年頃刊行の写真アルバムの撮影地点を特定した [UC-016 §地図と組み合わせた過去の景観の再現]。写真に写る複数の対象物を地図上の対応点に一つずつ合わせていくことで、一見すると建物に見えるものが通りの上に建てられた仮設の構造物であることが判明した例がある。空間情報がなければ難しいこうした判別が、地図との照合によって迅速に可能になる [UC-016 §地図と組み合わせた過去の景観の再現]。
メモリーグラフ:景観変化を発見する通時的撮影
景観の時間的変化を捉えるには、同じ場所・同じ構図で撮影された複数時点の写真が必要になる。この通時的写真(diachronic photographs)の取得を支援するために開発されたiOS・Android向けカメラアプリがメモリーグラフ(メモグラ)である。カメラのファインダーに古写真を半透明で重ね、現在の景観と一致させながら撮影することで、古写真と現在の景観を対応づける [UC-016 §Memorygraphアプリによる景観の変化の把握]。
一般のカメラでも比較は可能だが、その場合は古写真を記憶して頭の中で照合しなければならず容易ではない。ファインダー上で直接重ね合わせられるメモリーグラフでは、この認知的負荷が大幅に軽減される [UC-016 §Memorygraphアプリによる景観の変化の把握]。アプリの仕組みの詳細は「メモリーグラフの仕組み」を参照。
撮影を市民参加型で行うと、集まった撮影地点報告の平均から古写真の撮影地点を統計的に特定できる。さらに、現在の写真と古写真を比較することで、現在の建物のある部分に過去の形が保存されている可能性を推測できる場合がある [UC-016 §Memorygraphアプリによる景観の変化の把握]。京都では「スマホで三条 まちなみの変遷発見ラリー」のような市民による活動として写真が活用されており、こうした取り組みはパブリックヒューマニティーズと位置づけられている [UC-016 §景観を「読む」ための新しい技術]。メモリーグラフを用いた京都での景観学習実践、シルクロードでの遺跡同定といった具体的なユースケースは「メモリーグラフを用いた活動のユースケース」を参照。
IIIFにおける地理情報の扱い:navPlace拡張と地理的注釈の実践
IIIFの一般的な機能については本節では扱わない。ここでは地理情報との接点に絞る。
江戸切絵図の事例では、IIIFで公開された画像に対してCODHが開発したIIIF Curation Viewerを用い、地図上の各地点にマーカーを立てて地名を翻刻するという方法が採られた [UC-011 §地名の抽出とIIIFによる注釈]。IIIFが地図資料への地理的注釈付けの基盤として機能している例である。
東洋文庫所蔵の『大明地理之図』では、IIIF Curation Viewer上でアノテーションを作成し、「IIIF Curation Map Search」と呼ばれるツールで地名を検索・表示できる仕組みが構築された。大きな一枚画像に大量の地理的アノテーションを付与する用途であれば、IIIF Curation APIに対応したデータとして同様の構成を再利用できるとされる [UC-003 §東洋文庫『大明地理之図』]。
IIIFのnavPlace拡張は、マニフェストやキャンバスに地理座標(GeoJSON-LD)を直接埋め込み、地図上での資料の発見・ナビゲーションを可能にすることを意図した仕様拡張である。また、AllmapsはIIIFに対応し、IIIFで公開された地図をIIIFサーバーのみで位置合わせできると報告されている [UC-011 §6. 古地図の位置合わせ手法とソフトウェア]。ただし、上記の実践事例(IIIF Curation Viewer・Map Searchによる地理的注釈)がnavPlaceを明示的に用いたものとして記述されているわけではなく、navPlaceが実際にどのDHプロジェクトでどの程度採用・評価されているかは、紐づく記事からは確認できない。
「digitally-enabled criticism」としての景観の読み
写真を空間的な文脈の中で解釈するという営みを、Kitamoto氏は「digitally-enabled criticism」と呼ぶ。景観を「読む」とは、変化し続ける景観の中に不変なもの(invariance)を見出すことであり、同一構図写真を画素レベルで比較することで人が気づかない微細な変化が明らかになる場合がある [UC-016 §景観を「読む」ための新しい技術]。この解釈力はその場所への知識に依存し、場所をよく知っていれば撮影地点の判断が容易になるが、知らなければ理解に時間がかかる [UC-016 §景観を「読む」ための新しい技術]。
何が保存され何が変化したかという問いへの接近に際して、社会学や建築学の確立した理論が前提とされているわけではない。このプロジェクトは都市景観全体を対象としており、個々の建物の保存を扱う建築とは異なる観点だとKitamoto氏は述べている [UC-016 §景観を「読む」ための新しい技術]。