古地図を現代の地理空間に位置づけるには、古地図と現代地図のあいだの幾何学的な対応を求めるジオレファレンスが必要になる。その手法の選択は地図の精度や用途によって大きく異なり、単一の方法で万全とはならない。

GCPによる幾何補正とその限界

ジオレファレンスの基本的な方法は、GCP(Ground Control Point、基準点)を古地図と現代地図のあいだで対応づけ、その対応から数学的な変換式を推定することである。桜田門や堀の屈曲点のように両方の地図で同定できる地物を対応点とし、変換式によって古地図全体を現代座標に写す。対応点以外の点もその式で写されるため多くの地点で位置が合う一方、地図全体が幾何変換によって歪められ、地図上の文字が読めなくなるという問題がある [UC-011 §6. 古地図の位置合わせ手法とソフトウェア]。

江戸切絵図29枚のジオレファレンスでは日本版Map Warperが用いられた。後半の図は歪みが大きく、売り物として有名観光地を枠内に収めるために距離も方向も大きく崩されており、幾何補正だけでは位置を推定できない図が存在した [UC-011 §4. 江戸切絵図を現代地図に重ねる——地名抽出とジオレファレンス]。そこでジオレファレンスであたりをつけた後、抽出した地名の各マーカーをOpenStreetMapを背景として一点ずつ現代の正しい位置へ手作業で移動させる作業が全29枚に対して行われた [UC-011 §4. 江戸切絵図を現代地図に重ねる——地名抽出とジオレファレンス]。現時点の公開版では、この継続的な修正・追加を経て8,788件の地名が収録されている 1。同様の手作業はデジタル江戸の取り組みでも実施されており、約8,000箇所すべてに対してOpenStreetMapベースで一点ずつ移動させる作業が行われている [UC-012 §江戸マップデータセット]。

清代の北京の地図である乾隆京城全図の例では、GCPに加えて線を線に対応づける方法も開発された。北京城内が碁盤目状の道であることを利用し、直線が直線として保たれるような数学的変換を適用したものである。作業の過程で、GCPで合わせようとしても合わない箇所から5枚のシートで配置が入れ替わっていること、また1枚の中で左右が逆転しているものが発見された。「ただつなげればよい」のではなく、正しくつながるかを確認しなければならないことがこの事例の教訓とされている [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。

インタラクティブ・ジオレファレンシング:形を保つ一点合わせ

幾何補正に対し、インタラクティブ・ジオレファレンシングは一点だけを合わせ、地図全体の形は歪めない方式である。見たい一点の周辺以外はずれるが、文字が読める状態が保たれ、スマートフォンで自分のいる場所を中心に合わせて確認するような用途に向く [UC-011 §6. 古地図の位置合わせ手法とソフトウェア]。

Maplatはこの方式に近いソフトウェアで、古地図やイラストマップ・路線図のように絵として描かれた空間表現を扱う。位置関係が逆転しないよう同相変換を行い、三角形に分割して線を線に変換することで、もとの線が保たれるようにしている [UC-011 §6. 古地図の位置合わせ手法とソフトウェア]。

ディジタル・シルクロード・プロジェクトでは、同様の発想からマッピニング(Map+Pinning)が開発された。スタインの地図では経度方向を中心に数十kmに及ぶ誤差が存在し、これは1900年頃の砂漠での測量で時計が狂いやすい環境に起因する。マッピニングは地点を選ぶと背景地図が動いてそこだけが合い、「この地点は約5.6kmずれている」といった誤差を表示する。幾何補正で全体を歪めるのではなく、誤差の大きさと方向を一点ごとに示す手段として機能している [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。

精度のまちまちな古地図への対処

古地図の精度は均一ではなく、測量していない絵図から、測量済みでも多少のずれがあるものまで幅がある [UC-011 §8. まとめ——不確かさと向き合う歴史GIS]。ある程度の精度をもつ測量地図であれば、GCPを用いたジオレファレンスでかなり位置合わせができ、どのピクセルが現代のどこに対応するかが分かる。一方、歪みの大きい地図を幾何変換すると可読性が大きく下がるため、歪めずに一点だけ合わせるインタラクティブな方法が有効となる。点データについては、ジオレファレンスはあくまで出発点であり、現代地図との比較や現地調査を重ねて精度を高めていく、と整理されている [UC-011 §8. まとめ——不確かさと向き合う歴史GIS]。

トポロジカルな読み方:精度が低い地図の活用

精度の低い地図をどう扱うかについて、トポロジカルマップの考え方が示されている。距離や方位は正しくなくても、接続関係(どの地点がどれと隣接するか)さえ保たれていれば位置関係として読める、という地下鉄路線図に似た発想である [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。

グリュンヴェーデルの地図はスタインの地図に比べて不正確だが、調査した遺跡や出土遺物が地図に紐づけて記されており情報として貴重である。位置や方位を直接信じるのではなく、描かれた道や壁などの位置関係を正しいものとして読み、写真の位置関係も併用しながらもっともらしい解釈を組み立てると、結果的にほとんどの遺跡を同定できたという [UC-011 §7. ディジタル・シルクロードの古地図を読み直す]。

江戸切絵図の後半の図も同様に、距離や方向より「この道を行けば観光地に着く」という接続情報を優先して描かれたものと解釈されている [UC-011 §4. 江戸切絵図を現代地図に重ねる——地名抽出とジオレファレンス]。

主なジオレファレンスソフトウェアの特徴

複数のソフトウェア・サービスが実践で用いられており、それぞれ対象や環境に応じた特徴をもつ [UC-011 §6. 古地図の位置合わせ手法とソフトウェア]。

日本版Map Warperは立命館大学が公開するサービスで、画像をアップロードして対応点を打つと位置合わせができ、OpenStreetMapを土台に多くの人が地図を持ち寄って合わせられる。

AllmapsはIIIFに対応し、IIIFで公開された地図を取り込んで位置合わせする。複雑なGISの基盤やXYZ形式のタイル生成を必要とせず、IIIFサーバーさえあれば動くため、ミュージアムやライブラリの環境と相性がよい。複数ページの紙をつないで一枚の地図にすることもできる。

Georeferencerは地図収集家デイビッド・ラムジー氏のコレクションに付随し、ブラウザ上での対応点設定に加えて三次元的な重ね合わせにも対応する。

Maplatは前述のとおり同相変換による一点合わせに特化し、絵図・イラストマップ・路線図のような非測量的な空間表現を対象とする。

参考資料

[1] 江戸マップ:江戸切絵図を活用した地名と地理のデータベース | ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター(CODH). https://codh.rois.ac.jp/edo-maps/, 取得日 2026-08-08