データを記述する語彙の選び方は、誰に渡すか、どの項目を書くか、誰が付けるか、流通と発見のどちらを重んじるかによって変わる。標準に従うかたいメタデータと、対象に即して自由に作るやわらかいメタデータという二つの極のあいだで、どこまで標準に寄せるかを、記事に見える実践から整理する。
誰に渡すかで、標準への寄せ方が決まる
スキーマを選ぶ第一の基準は、データを誰に渡すかである。自分や自組織のためだけに使うなら、相互運用性の重要度は下がる。一般的・専門的な利用者へ流通させるなら、相互運用性を考慮した形式や、分野ごとの詳細な項目が要る [UC-021 §メタデータをめぐる論点:利用者・項目・専門性]。標準語彙をどこまで厳密に採るかは、この分岐でまず決まる。
第二の観点は項目の類型で、基本・内容・来歴・管理・利用の五種類に整理されている。どの項目を書くかによって、必要な語彙は異なる [UC-021 §メタデータをめぐる論点:利用者・項目・専門性]。第三の観点は付与する側の専門性である。基本メタデータや識別子を付与するデータライブラリアン的、利用者視点で潜在的価値を引き出すデータキュレーター的、長期的価値を保存するデータアーキビスト的の三種があり、メタデータの付け方はこれに応じて変わる [UC-021 §メタデータをめぐる論点:利用者・項目・専門性]。
さらに、メタデータを学術的説明として専門知を詰めたものとみなす立場(目的)と、検索できればよい補助情報とみなす立場(手段)とでは、自動生成への評価が分かれる [UC-021 §メタデータ付与の自動化と「目的か手段か」]。どちらに立つかも、スキーマの選び方に影響する。
かたいメタデータとやわらかいメタデータ
かたいメタデータは標準的な共通スキーマに基づいて作成し、標準化によって相互運用性を担保する。ただし合意形成には多大なコストがかかり、標準化できない情報は脱落する [UC-021 §かたいメタデータとやわらかいメタデータ]。やわらかいメタデータは、目的に応じてスキーマを柔軟に使い分け、相互運用性は生成AI の橋渡しで確保するという発想に立つ。事前の合意が不要になり、利用者が目的に最適化して作成でき、多様な情報を取り込める [UC-021 §かたいメタデータとやわらかいメタデータ]。
どこまで標準に寄せ、どこから自由に書くか
標準に寄せるかどうかの基準は、流通を重視するか、発見(ファインダビリティ)を重視するかにある。流通を重視する場面(DOI など)では固定的なスキーマによる標準化が引き続き重要であり、発見を重視する場面ではやわらかいメタデータと生成AI が多様化を進める [UC-021 §AI時代におけるメタデータの再考と今後の展望]。
生成AI が橋渡しできる範囲には限りがある。同義語や表記の揺れといった浅い意味のギャップは橋渡しできるが、深い意味のギャップは橋渡しできない [UC-021 §AI時代におけるメタデータの再考と今後の展望]。したがって、深い意味の違いを越えて共有したい項目は標準の側に置く必要がある。
質疑応答では、かたいメタデータは最低限必要なものに絞り、それ以外は無理に標準へ収めず自由に書いてよいという見方が示された。コンテキスト作成の準備は人間に残るが、きれいに整理する労力や使い回しの面で人間の負担は大きく減る可能性があるとも述べられている [UC-021 §AI時代におけるメタデータの再考と今後の展望]。標準に収まらない情報を事前に切り捨てるのではなく、多様なデータをそのまま保存し、構造化をオンデマンドで行うという役割分担への移行が提案されている。この移行にはメタデータの再定義が必要だとされ、現在の方式はなお標準に収まらない情報が脱落しやすい形に近い [UC-021 §AI時代におけるメタデータの再考と今後の展望]。
標準を土台に、対象に即した体系を組む
標準と対象に固有の体系は、択一ではない。イランのバム遺跡の3次元復元では、資源をクラスとして体系化して記述するオントロジー的なメタデータを採り、語彙にはダブリンコア(Dublin Core)などの標準を組み合わせた。国際標準のメタデータとして Object ID も併用し、作成にはオントロジーエディターの Protégé を用いている [UC-020 §メタデータの管理と公開]。標準語彙と国際標準を土台に、対象に即した体系をその上に組んだ組み合わせの一例である。オントロジー的な付け方を採った背景には、共同研究者がオントロジーの研究をしていたことがあるという [UC-020 §メタデータの管理と公開]。この選択は、対象だけでなく担い手の事情にも左右されている。
標準では届かない項目を、生成AI で補う
標準に従った書誌情報は、それだけでは利用者に届きにくいことがある。つくし堂は、標準に従って記述された書誌情報のメタデータと、くずし字認識によるOCRテキスト(OCR誤りを含む古文)の二つを入力とし、プロンプトを与えて要約やタグを生成する [UC-021 §つくし堂:AIによる古典籍メタデータの生成]。現代文で書かれるため読みやすくなる点が利点で、3,000点以上の古典籍にキャッチフレーズを付ける作業は人間の専門家には現実的でない。この事例は、正解がなく多様な解があり得るメタデータにこそ生成が有効だと位置づけている [UC-021 §つくし堂:AIによる古典籍メタデータの生成]。
ただし、生成された記述はもっともらしく見えるため、ハルシネーション(幻覚)かどうかの確認が難しく、専門家から見れば細部に疑問が残る可能性があるとも述べられている [UC-021 §つくし堂:AIによる古典籍メタデータの生成]。やわらかいメタデータは、標準化された記述の代わりではなく、その補いとして置かれている。
利用事例と使い方という、通常は書かれない項目
メタデータには、作成者自身が把握しきれず書かれにくい項目がある。データセットの公開メタデータには、どう作ったかは書かれても、どう使えるかは書かれにくい。Mahalo Research は、Mahalo Button で蓄積した利用事例を加えることで、データセット要約の応用分野の記述を充実させている [UC-021 §Mahalo Research:やわらかいメタデータによるデータセット発見支援]。この設計では、利用事例の生テキストをそのまま保持し、利用の時点で構造化や形式変換を行う。最初に情報をまとめて落とさず、リッチな情報を持っておく方針である [UC-021 §Mahalo Button:データ利用事例の蓄積と活用]。
さらに、データをどう使うか(HOW)を記述する Operational Metadata という整理が試みられている。ファイル形式と読み込み方法、列定義(名前・型・単位・値の意味)、ファイル名パターン、API使用例、注意点・制約などを含む。データを読み込むソフトウェアがあれば、それを生成AI に入力して自動的に分析させ、この形式で生成できるという。この分類は暫定的なものとされている [UC-021 §生成AIのための「HOWメタデータ」]。Descriptive Metadata(WHAT)と Operational Metadata を併せて与えると、台風経路を描くプログラムが自動生成される例が示されている。メタデータの語彙を広げることは、AI が読み手になる場面への備えにもなる [UC-021 §生成AIのための「HOWメタデータ」]。