メモリーグラフ(略称:メモグラ)は、カメラのファインダー上に基準となる古写真などのガイド画像を半透明で重ねて表示し、同じ地点・同じ構図の写真を撮影できるよう支援するカメラアプリである。iOS版とAndroid版が無料で公開されている。[UC-004 §メモリーグラフとは:同一構図撮影を支援するカメラアプリ]
同一構図撮影を支援する仕組み
アプリの基本的な操作は、ファインダー上に表示されたガイド画像と現実の風景を重ね合わせながら、同一構図になる位置・角度を撮影者自身が探索し、シャッターを切るというものである。撮影された2枚の写真を重ねて比較すると、景観の大きな変化だけでなく細かい変化まで発見できる。[UC-004 §メモリーグラフとは:同一構図撮影を支援するカメラアプリ]
この仕組みが解決しようとしたのは、手動による今昔写真撮影が人間にとって認知的に高負荷な作業だという問題である。古写真を記憶に保持したまま、ファインダー越しの像と比較し、自分が移動することで3次元のずれを修正していくメンタルローテーション(心的な3次元回転)は、人間にとって得意でない処理とされる。スマートフォンのカメラ画面にガイド画像を直接重ねることで、この負荷を大幅に減らすという着想が開発の起点にあった。[UC-004 §開発の背景:手動による今昔写真撮影の困難]
ガイド画像を入れ替えるだけで、今昔写真・ビフォーアフター写真・定点観測写真・聖地巡礼写真・位置証明写真・撮影シミュレーションという6種類の同一構図撮影に同一アプリで対応できる。[UC-004 §同一構図撮影の6つの種類] 用途の類型と活動の実践例については「メモリーグラフを用いた活動のユースケース」を参照。
ARや紙焼き写真との違い
メモリーグラフは「拡張ファインダー」として設計されており、拡張現実(AR)とは設計思想が異なる。ARでは過去の写真がカメラの向こう側の座標に固定されていて、カメラを動かすと写真の見え方が変化する。メモリーグラフではカメラを動かしてもファインダー上のガイド画像は変化せず、座標系の一致を撮影者が能動的に探索する「参加」のためのツールとして位置づけられている。[UC-004 §拡張ファインダーとしての設計:ARや写真再撮影との比較]
紙焼き写真を手に持って同一場所で再撮影する方法と比べると、メモリーグラフでは2枚の画像をそれぞれ独立したデータとして扱えるため、紙焼きを重ねた場合に隠れてしまう景観も別途記録できる。[UC-004 §拡張ファインダーとしての設計:ARや写真再撮影との比較]
「シーン」「プロジェクト」「アカウント」の3要素
アプリは3つの基本要素で構成される。シーンはガイドとなるシーン画像と、それに合わせて撮影されたフォトの集合であり、同じシーン画像に対して複数の人が撮影した結果を集めて比較できる。プロジェクトはシーンの順序つき集合で、個人で完結する「マイプロジェクト」と複数人で共有する「共有プロジェクト」の2種類がある。アカウントはGoogle Firebaseで管理される。[UC-004 §アプリの基本要素とプラットフォーム]
プラットフォームは、利用者が現場で使うiOS版・Android版アプリのほか、共有プロジェクトの作成ツール(メモグラ・マネージャ)と閲覧ツール(メモグラ・ビューア)から構成される。マネージャは現在招待制で運用されており、共有プロジェクトを作成したい場合は問い合わせが必要である。ビューアはアクセスコードで閲覧でき、地図上に各シーンの撮影地点を表示したり、シーンごとに撮影されたフォトを一覧表示したりできる。サーバ側に保存されるのは共有プロジェクトのデータのみで、マイプロジェクトのデータはサーバには保存されない。[UC-004 §アプリの基本要素とプラットフォーム]
同一構図に合わせる作業の難しさと「景観を読む力」
メモリーグラフの仕組みは単純でも、実際に同一構図に合わせる作業は想定以上に難しいと報告されている。[UC-004 §利用上の留意点:難易度のギャップと景観を読む力] 古写真と現在の景観の間で何が変わり何が変わっていないかを判断できれば、変わっていない要素に照準を合わせて構図を決めやすくなる。地形のような変わりにくい要素や文化的景観に関する背景知識—すなわち景観を読む力—がアプリを効果的に使ううえで求められるという側面がある。[UC-004 §利用上の留意点:難易度のギャップと景観を読む力]
海外でのフィールドワークにアプリを持ち込んだ事例では、Googleサインインが使いにくい環境でのログイン問題や、共有プロジェクトの作成権限が申請者に限定されていることへの対応(参入コードによる回避)、中国での地図サービスの切り替えといった運用上の課題も生じている。[UC-008 §メモリーグラフを用いた現地調査] これらはアプリの基本的な撮影機能に関わるものではなく、共有機能やプラットフォーム依存の認証を現地環境に合わせる際の課題である。