はじめに

2026年8月7日に開催されたDiHuCoハブシンポジウム2026:Agentic DHに向けて~人文学×AIの多様化とAI協働型研究の広がりでは、参加者アンケートを実施し、38件の回答が集まりました。

設問は全11問で、立場・分野・AIの利用頻度・利用目的・満足度を尋ねる選択式の5問が必須、役立つこと、困っていること、問題だと思うこと・気がかりなこと、もっと知りたいこと、今後のテーマ、その他の感想を尋ねる自由記述の6問が任意です。満足度の回答から見ると、回答者は肯定的な層に偏っており、以下の記述はこの偏りを前提としたものです。

以下の論点は、自由記述6問のうち、役立つこと、困っていること、問題だと思うこと・気がかりなこと、もっと知りたいことの4問の回答を横断して、内容の近い記述をまとめたものです。役立つことには時間の短縮や効率化が書かれ、ハルシネーションや、AIに学習されることは設問をまたいで現れ、もっと知りたいことには、他の人の使用例や実例が並びます。研究や業務でAIを使う際に役立つことや課題を把握したい方に向けた内容です。

論点1:AIの使い方

時間の短縮や効率化、プログラミング、文献検索、翻訳、文章のレビューのほか、プロンプト、再現性、他の人の使用例や実例、教育をめぐる記述が見られます。

役立つことの設問では、体裁の調整やプログラムを書いていた時間の短縮や、文章のレビューが並びます。

  • 体裁の調整にかけていた時間が大幅に短縮され、本質的な作業に向き合う時間を長く取れるようになりました
  • コンピュータープログラムが生成AIでほぼ正確に書けるようになり、今までプログラムを書いていた時間を、アイデアの検証など他の作業に使えるようになった
  • 自分の書いた文章のレビューが簡単に何度もできるようになった

このほか、効率化や時間の節約、文献検索や要約、翻訳、思考の補助、壁打ちも書かれています。

困っていることでは、プロンプトで希望通りの出力を得ることの難しさや、再現性を得ることが難しい場合があることが述べられています。

  • 正しい(効率のいい)プロンプトの出力へ自身が到達できていないので、AIの力を最大限活かせていないと考えている
  • プログラミング作業が容易になった反面、希望通りの出力を得るプロンプトが複雑になるし、エラーが起きたとき対応が困難である
  • 技術進化の速度が速く、再現性を得ることが難しい場合がある

もっと知りたいこととしては、AIを使ったプロジェクトや研究、プロンプトと結果の実例や、どのように協働環境を構築しているのかが挙がっています。

  • 具体的にAIを使う事で達成できたプロジェクト、研究などをもっと知れると、ベストプラクティスという意味で非常に参考になる
  • どういうプロンプトでどういう結果が出たとか、実例を知りたい
  • 自分の研究のどこをどのようにAIに置き換えているのか、人文学やDH研究の現場で、とくにAIをキーワードとして押し出さない研究でどのように協働環境を構築しているのか知りたいです

このほか、適切な使い方や、AI利用に関する教育も求められています。エージェントを協調させて作業させるための方法を尋ねる回答は、プログラマやエンジニア向けのこういった情報は手に入りやすいと思いますが、もっと一般的なタスクでの使い方の勘どころが知りたい、と続けています。

論点2:出力の確からしさの確認

AIの出力の虚偽や真偽不明、偏り、多さと、確認やチェックの必要が、設問をまたいで書かれています。

困っていることの設問では、虚偽の回答、専門ではない情報の妥当性判断、部分的にしかなされていない作業のチェックが挙がっています。

  • 適当に虚偽の回答を出してくる
  • 他分野のメタデータ規格等、専門ではない情報の妥当性判断に困る
  • 特にOCRで、ファイル全体の作業を指示したのに、部分的にしかなされておらず、それのチェックが必要になる

問題だと思うこと・気がかりなことには、AIの出力をそのまま信じてしまうことがあり得ることや、誤った答えが正当化されてしまうのではないかということ、出力の多さを挙げる回答が並びます。

  • 尋ねる事項に関する知識がなければ、そのまま信じてしまうことがあり得る
  • AIによってスタンダードが変更されて行くこと:誤った答えが正当化されてしまうのではないかと気にかかる
  • AIの出力の多さに対して、自分が読める分量は限られている

ハルシネーションがあることも、困っていることの一つに数えられています。もっと知りたいこととしては、検証の方法、AI以外のツールと併用することによる精度の高め方、ハルシネーションを起こさないプロンプトの書き方が求められています。

また、ある回答は、年代地域によって回答や成果に偏りが出てくること、特に年代は戦後から1960年代、地域は非英語圏であることを困っていることとして挙げています。同じ回答は、もっと知りたいこととして、複数のAIモデルを使用することが本当に批判的な回答を生み出せるのかを問い、特に現在普及している生成AIモデルの多くが英語圏で開発され、学習されていることに対する懸念を添えています。

論点3:人間が担う範囲の見極め

どこまでがAIなのか、論文査読、研究の主導権、回り道をする面白さ、身に着けた「技術」、創造性が求められる研究、社会全体の方向、人間がいらないとする言説、学生や教育の現場をめぐる記述があります。

まず、どこまでがAIなのかの判断と、その見えにくさが挙がっています。

  • どこまで任せて良いのかの判断に困る
  • 論文や学会報告でAIのリファレンスをどこまでとし、オリジナルをどの部分とするかの判断に困る
  • 研究や業務の過程において、どこまでがAIによる提案や分析で、どこからが人間による判断や選択なのかが見えにくくなることを懸念しています

見えにくくなることを懸念した回答は、AIの出力をなぜ採用し、何を採用しなかったのかを適切に記録・検証できる仕組みが必要だと感じたとし、AIとの共同分析において人間の判断や独自性を保ちながらどのように活用できるのかを知りたいとしています。論文作成には使えるが論文査読に利用できないことを問題とする回答もあります。

研究の主導権や回り道をする面白さ、身に着けた「技術」も取り上げられています。

  • 論文レビューなどでAIに頼りすぎてしまい、研究の主導権をAIに握られてしまいそうになる
  • 回り道をする面白さに気づくチャンスをなくしかねないが、これは程度問題であり、自分の先輩たちは自分たちをみてそう思ったことだろう
  • 身に着けた「技術」が意味をなくし、「問いを立てること」だけが残るので、真の研究者しか生き残れないと感じる

このほか、創造性が求められる研究という性質上どうやって付き合うべきか使い方が難しいという内容や、個々人としての恩恵は大きいけれども社会全体が似たような方向に進んでしまわないかという心配も寄せられています。「AIがあれば人間なんていらないよね」という言説をどう言説として扱うか、という問いも出ています。

教育では、学生の利用やレポート、教育の現場での取り組み方が書かれています。

  • 学生が生成AIを利用することそのものは問題ないのだが、一部の学生は専門知識を習得する労力を省くために利用したがる
  • 学生のレポートの劣化が甚だしい
  • 教育の現場にどのように取り組んでいくべきかが気になっています

論点4:入力したデータの行方

入力ファイルや学術データなど、情報やデータの扱いのほか、マルウェア対策、業務での注意点、安全なAIとはどういうものかが問われています。

利用者レベルでの入力ファイルとして機密情報を含まないものであっても、そのドキュメントを使ってもよいか躊躇することがある、と書かれています。取り扱いデータの保護、情報管理、情報セキュリティ知識の不足、マルウェア対策も出てきます。組織全体のAI利用に関する理解度に差があると、個人情報や機密情報の漏洩のリスクが高まる可能性があるかと思いました、という回答も寄せられています。

入力内容が学習されること、誰かの文章がそのまま表示されること、「学習されない」権利を守る仕組みが分からないことは、問題だと思うこと・気がかりなことの設問に書かれています。学習データそのものを問う回答は、AIの性能を向上させるためには、人文学の資料を学習させる必要があるが、その学習の過程が権利をないがしろにしたり、労働力や環境資源を搾取しない、持続的ないしは協働的なAIの学習システムが求められる、と述べています。

日本の研究が海外企業に収集されていくことへの懸念や、日本の学術界全体で使えるような信頼性の高い、また情報漏洩に備えられるようなクラウドがなく、閉じた空間で日本独自の自由な学術データが蓄積されるといいと思う、という意見が挙がっています。生成AIサービスによるリポジトリへの大量アクセスを取り上げた回答は、学術データの公開とそのコストの工面について検討する必要があるとしています。

もっと知りたいこととしては、情報漏洩の防ぎ方、業務での注意点、安全なAIとはどういうものかが尋ねられています。

  • 学習機能による情報漏洩の防ぎ方を知りたい
  • 業務で利用する場合の具体的な注意点を知りたい
  • 安全なAIとはどういうものか知りたい

論点5:利用料の負担

AIの利用にかかる費用をめぐっては、無料枠の利用可能枠や研究費での執行のしにくさ、格差の拡大、将来の使用料金の引き上げ、海外に流れていく経済的利益、課金が正義となること、無制限に課金する経済力がないことが取り上げられています。

困っていることでは、無料枠の一日の利用可能枠や、研究費で利用料を執行しにくいこと、私費を投じるかどうかの悩みが出ています。

  • 無料枠で使用しているので、すぐに一日の利用可能枠がいっぱいになる
  • 月払いのプランが多く、研究費で利用料を執行しにくい
  • 自分の研究費がないので、有料アカウントを持つために私費を投じるか悩んでいる(格差の拡大)

問題だと思うこと・気がかりなことには、将来の使用料金の引き上げ、学術ジャーナルに高額な購読料を払わざるを得ないような昨今の問題がAIでも起きるのではないかということ、海外に経済的利益が流れていくこと、課金が正義となること、経済力のない者は滅ぶことが挙がっています。

経済力のない者は滅ぶことを挙げた回答は、もっと知りたいこととして、いろいろなAIを試したいが、課金しないと本当のところはわからないし、かといって無制限に課金する経済力がない、と書いています。

アンケート情報

調査の方法と回答者の構成

アンケートは8月10日にGoogleフォームのリンクを申込者にメールで配信し、8月21日までの回答を集計対象としています。匿名の調査であり、氏名やメールアドレスは収集していません。当日の参加者は現地122名・オンライン78名の計200名でしたが、オンラインは申込者のうち誰が実際に参加したかを特定できないため、回答率の分母にはアンケート配信先である申込者数234名を用いています。

回答者の構成(有効回答38名)。立場は、研究者18名、職員6名、会社員5名、市民・個人4名、学生3名、上記以外(自由記入・各1名)2名。分野は、人文学16名、情報学10名、社会科学5名、それ以外7名。AIの利用頻度は、ほぼ毎日使っている17名、月に数回以上、定期的に使っている8名、試したことはある程度8名、ほぼ使っていない5名。

立場では研究者、分野では人文学が最も多くなっています。AIの利用頻度は、ほぼ毎日使っていると答えた回答者が最も多く、ほぼ使っていないと答えたのは5名でした。満足度を尋ねた設問では、「期待以上だった」が17名、「やや期待以上だった」が10名、「概ね期待通りだった」が10名、「やや期待を下回った」が1名、「期待を下回った」が0名で、回答者は肯定的な層に偏っています。

AIの利用目的(複数選択・有効回答38名)。文章の作成・要約・翻訳29名、質問・相談・アイデア出し27名、研究・調査(資料探索・データ分析など)20名、プログラムの作成(コーディング)14名、使っていない3名、画像・音声などの制作1名、その他(自由記入)2名。

利用目的は複数選択で、文章の作成・要約・翻訳と質問・相談・アイデア出しが多く、プログラムの作成を挙げた回答者は14名、使っていないと答えた回答者は3名です。


この記事は、アンケートの回答を基に生成AIを利用して作成したIssues記事です。