公開の判断は、データ全体に対する可否ではなく、データの中の属性ごとに下す。個人を特定しうる記述、人が写った画像、位置の精度、権利の状態は、それぞれ別の理由で公開を制限し、別の方法で緩和できる。全部を開けないときも、何を開き、どこまで粗くするかを選べる。
公開の可否を左右する情報の類型
個人を特定できる情報は、もっとも慎重に扱う類型である。住所・氏名・生年月日のように、単独または組み合わせで個人を指せる属性は、歴史的資料として集められたものでも、現存する人物や遺族に影響しうる。
人が写った写真や映像では、写り込んだ人物の同意の有無が問題になる。街頭や地域のフィールドワークで撮った記録は、研究目的であっても、写った人の意図と切り離せない。
位置情報は、精度によって公開の可否が変わる。正確な座標が特定の個人の居住地や行動と結びつくと、精度そのものが特定のリスクになる。関東大震災の死亡者住所をジオコーディングした事例では、変換結果を1点1人の死者として約3万8千件プロットしたが、点が重なって分析しにくいため、100メートル四方のメッシュで集計し直した。その際、レベル4(区)止まりの地点は集計から除外している [UC-032 §死亡者住所分布の可視化と全体傾向]。個別の点を示さなくても、本所区・深川区を中心とする被害の偏りは集計から読み取れる [UC-032 §死亡者住所分布の可視化と全体傾向]。精度の段階を意図して選ぶという考え方は、位置情報に限らず、属性情報一般に応用できる。
権利が処理できていない資料の扱いは、ライセンスの選択と権利処理の手続きが前提になる。詳細は「ライセンスの選び方と権利処理」を参照。
全部を開けないときに何を開くか
公開できない情報が混じるとき、選択肢は全公開か非公開かの二つに限られない。
記述だけを公開する方法では、資料の存在と性格をメタデータとして示し、個別の記録の中身は閉じる。どのような資料がどこにあるかが伝わり、中身は問い合わせへの個別対応に回せる。
精度を落として公開する方法では、粒度を粗くしたうえで開く。上の震災死亡者の事例は、点を面(メッシュ)に集計し直し、区止まりの地点を外すことでこの対応をとった。年齢を十年刻みに丸める対応も同じ考え方である。
範囲を粗くして公開する方法では、地理的範囲・期間・属性のうち識別リスクの高い部分を切り出して閉じ、残りを開く。
三つの方法は排他的ではなく、組み合わせて使える。たとえば、範囲を絞ったうえで、残りの範囲の位置を粗いメッシュにする。
判断の理由を残す
何を公開し何を閉じたかに加えて、その理由を記録しておく。理由が残っていれば、問い合わせに答えるときや状況が変わって方針を見直すときに、担当者が同じ論点を一から組み直さずに済む。公開範囲を変える際にも、当初の意図が見直しの出発点になる。精度を落とした場合は、どの閾値で何を除外したか(上の例なら、区止まりの地点を除外したこと)もあわせて記すと、公開したデータの限界が利用者に伝わる。公開後の撤回や更新の運用は「公開したあと」を参照。