資料をデータにする行為は、何を実体とし、何を属性とし、何を関係とするかという選択を伴う。その選択は、後で何を問えるかを決定的に左右する。

何を実体とし、何を関係とするか

データモデリングの第一の問いは、対象世界のどの要素を独立した実体として立て、どの要素を別の実体への属性や関係として扱うかにある。同じ「人物と場所のつながり」を、「人物」という実体に「出身地」という属性を付与するか、「人物」と「地名」という二つの実体のあいだに「出身」という関係を張るかで、後から問える問いの種類は変わる。前者は属性値を返すクエリには強いが、地名を軸にした集計や別の人物・事物との結合には弱い。後者はグラフ的な問い——「この地名と関係を持つ人物を列挙せよ」——に応えやすくなる。この選択の含意については「知識グラフとリンクトデータ」を参照。

オントロジーはこうした選択に明示的な枠組みを与える道具である。バム遺跡の3次元復元プロジェクトでは、資源をクラスとして体系化して記述するオントロジー的なメタデータの付け方を採用し、Dublin Core などの標準語彙を組み合わせ、Protégé によってオントロジーを編集・管理した [UC-020 §メタデータの管理と公開]。語彙とスキーマの選択については「メタデータ」を参照。

本文から切り離して注釈を持つ設計

構造化のもう一つの基本的な選択は、注釈や解釈を本文(一次資料の内容)に埋め込むか、切り離して外部から参照させるかである。埋め込む設計は記述が単純になる半面、同一箇所に複数の解釈が競合するとき、あるいは解釈を後から撤回・更新するときに、元の資料と注釈の境界が曖昧になりやすい。切り離す設計は、資料それ自体の改変を避けながら複数の注釈レイヤーを重ねられる。どちらを選ぶかは、誰が注釈を付け、それを誰が更新し、原資料との関係をどう保証するかという運用上の問いと不可分である。

この設計の選択は、格納の技術的な実装より先に——設計の段階で——行われる必要がある。格納の技術については「データの格納と情報基盤」を参照。

構造を決めることは解釈を含む

データモデルの設計は中立な手続きではなく、対象についての解釈を埋め込む行為である。バム遺跡の事例が示すように、欠損した部分をどう補うかはペルシャ建築として妥当かという専門的判断を必要とし、その判断がモデルの構造に刻まれる [UC-020 §モデリングとレンダリングの分担と精度・コストの調整]。建築の知識を持つ専門家がモデリングを担い、コンピューターの専門家がレンダリングを担う分業に改めることで、初めて対象に即した構造が作れるようになったという経験は、データモデルの設計が「形式的な作業」ではなく「解釈を含む実践」であることを端的に示している [UC-020 §モデリングとレンダリングの分担と精度・コストの調整]。

精度とコストのトレードオフもまた、モデル設計における解釈的決断である。重要な部分を手作業で正確に、重要度の低い部分を自動化でコストを抑えて処理するという使い分けは、「この要素をどの精度で記述するか」という問いに答えを与えており、それ自体が資料のどの部分に認識論的な重みを置くかの表明になる [UC-020 §モデリングとレンダリングの分担と精度・コストの調整]。

設計に含まれる解釈の問題は、テキスト系の資料でも同様に生じる。テキストの構造化(TEI 符号化を含む)については本ガイドラインでは扱わない。データ整備の記録をどう残すかは「データを整える」を参照。