AI が生成した結果をデータとして扱うには、誤りが残ることを前提とした工程設計、人が関わる箇所の明示、そして AI が作ったものであることを記録・開示する仕組みが必要になる。何を作らせるかは対象ごとの節に委ねるとして、本節はその作法——誤りとどう付き合うか、工程をどう設計し改善するか、開示をどう行うか——を扱う。
素材の品質が出力の品質を決める
DiHuCo ガイドラインシステムにおける記事生成では、録音から起こした文字起こしと講演資料の両方を素材として与えることで、講演資料だけから作る場合よりも出力の品質が大きく上がるという観察が報告されている。[UC-034 §記事生成のワークフロー] 口頭の説明には話し手が何を強調しているかが表れており、記事の重点を取りやすくなるためだという。[UC-034 §記事生成のワークフロー] このことは、AI に作らせる前の「素材の準備」が出力の質を左右する最初の介入点であることを示している。素材と出力の品質の関係を把握しておくことが、工程全体の設計の起点となる。
幻覚——素材にない情報を書き加える問題
記事生成と AI レビューの両工程に共通する課題として、生成 AI が素材にない情報を書き加えてしまう問題がある。[UC-034 §記事生成のワークフロー] この現象は一般に「幻覚(hallucination)」と呼ばれ、生成した文章が流暢であっても内容が根拠を持たない場合がある。
この問題への対処として、DiHuCo ガイドラインシステムは工程のなかに複数の確認段階を置いている。AI が生成した記事を AI がレビューし、さらに講演者本人が内容を確認してから知識ベースへの登録を行う手順がそれにあたる。[UC-034 §記事生成のワークフロー] 同時に、素材に齟齬がある場合は講演資料を優先するというルールを工程内に定めており、[UC-034 §記事生成のワークフロー] 素材の範囲を超えた生成を抑制しようとする設計になっている。
誤りが残る前提での工程設計
講演者本人による確認を経てもなお、AI が生成したデータには誤りが残り得る。このことを前提として工程を設計することが求められる。
DiHuCo ガイドラインシステムでは、検査で見つかった問題点を「編集レシピ」に反映し、以後の生成に活かす仕組みを置いている。[UC-034 §Agentic Publishingとは何か] 校閲係のエージェントが重複・食い違い・根拠の不足といった多観点から出力を検査し、支援係が修正を提案し、人間課が裁定して差し戻すと再ビルドや候補内修正が行われる。[UC-034 §Agentic Publishingとは何か] 問題を発見したら出来上がった結果に手を加えるのではなく、レシピ(工程の設計)を変えて作り直すという考え方は、北本氏が料理にたとえて説明している——素材から料理を作るノウハウがレシピであり、出来上がった料理に手を加えるのではなくレシピを変えて作り直すのだと。[UC-034 §編集レシピとAI生成構造]
なお、人間がどの深さで関与するかという枠組み——Human-in-the-loop・Human-on-the-loop・Human-out-of-the-loop の三類型と、研究者が指揮者として責任を負うという整理——は「エージェントと研究の作法」を参照されたい。本節の関心は、その三類型のどれを選ぶにせよ、AI が生成したものを扱う際に必要となる作法にある。
何を書き、何を書かないかを構造で制御する
幻覚の問題は、生成した後の検査だけで対処するのではなく、生成の前に書くべき範囲を構造として指定することでも抑制できる。
DiHuCo ガイドラインシステムの AI 生成構造では、各節に識別子・何を述べるかの指示・検索語・扱わない範囲の指定を記述し、それに基づいて知識ベースを検索して関連情報を抽出する。[UC-034 §編集レシピとAI生成構造] たとえば「地図とは何か」を述べる節に「GIS には触れない」という範囲指定を置くことで、隣接するが別節が担う事項への踏み込みを構造の側で制限している。[UC-034 §編集レシピとAI生成構造] 生成の指示を精密にすることで、素材にない情報が混入する余地そのものを狭めようとする設計である。
AI が作ったものであることの記録と開示
AI が生成した成果物については、誰が(あるいは何が)それを作ったかを記録し、開示することが求められる。
DiHuCo ガイドラインシステムでは、記事のメタデータとして生成に用いたモデル・プロンプト・素材ファイル・生成日時を記録している。[UC-034 §記事生成のワークフロー] 記事末尾には「この記事は、講演記録を基に生成 AI を利用して作成したユースケース記事です」と明示し、生成に関わった工程情報を generation_metadata ブロックとして保持している。[UC-034 §記事生成のワークフロー]
版の管理も開示の一部をなす。作業版(Draft)は常に更新され AI によって内容も書き換えられるため引用には向かないとされ、候補版(Candidate)は作業版を凍結した版で、承認版(Approved)はコミュニティの承認を得た安定した引用可能な版とされる。[UC-034 §ガイドラインの版と権利] どの版を参照するかによって信頼性の前提が異なるため、版の区別を明示することが読み手への誠実さの一部となっている。
AI が作ったものの権利の所在
AI が生成した部分の著作権については、論点として残ることが指摘されている。記事を元に AI が再構成して執筆した部分には著作権が生じないのではないか、一方で構造は人間が指定したものであり編集部分には著作性があるとも考えられる、と問いが示されている。[UC-034 §ガイドラインの版と権利] DiHuCo ガイドラインシステムでは全体を CC BY-NC 相当のライセンスで公開する方針をとっているが、著者は誰か、権利はどこに宿るかは今後の議論が必要だとされている。[UC-034 §ガイドラインの版と権利] AI でデータを作る実践が広がるにつれ、この問いは避けられなくなる。