富士山デザイン-横断的に見る描かれた富士山

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解説

世界遺産にも登録されている富士山は人気のある題材で、日本古典籍データセットに収録されている画像の中にも多数見出せます。例えば『道中膝栗毛』、「やじきた道中」でも知られる江戸時代の滑稽本は、「借金は富士の山ほどある故に、そこで夜逃を駿河者かな」(1)という富士山にかけた駄洒落から始まり、最初の挿絵は堂々たる富士山が背景になっています(2)。もう少し高尚な絵本、詩の内容に合わせて様々なシーンを描く『名物詩歌図会』でも、富士山の雄大な姿が描かれています(3)。

この二つの絵はずいぶん描き方が異なりますが(4)(5)、不思議なことにこの山はすぐに富士山であると判別できます。逆にこの図(6)は各地の名山を描いた本の中のワンシーンですが、ここに富士山がないことも多くの日本人には一目瞭然です。十八世紀末の『絵本松の調』には、湖畔から富士山を仰ぎ見る様子が描かれていますが(7)(8)、ほぼ同じ構図のこの絵(9)の背景も、富士山ではないとすぐに判断できます。我々がなぜ富士山を認識できるかは、別の角度から分析する必要がありますが、ここではさまざまなバリエーション、デザインでくりかえし描かれてきた富士山を見てみましょう。

文学作品や絵画作品のみでなく、さまざまなジャンルを横断してみることができるのが日本古典籍データセットの利点でもあります。今日の実用書・旅行ガイドに当たる『東海道中山道/道中記』は、富士山を望む江戸の風景から始まります(10)。ここで描かれている富士山を前の二つと比べると、デザイン上の共通点が見えてきます(11)。単にとびぬけて高い山というだけではなく、山頂の三峰や斜面の描写の共通性です。実はこの三峰表現は鎌倉時代にはすでに定着していたといわれています。同じ旅行ガイドの中に、より近くから見た富士山も描かれています(12)。

デザイン化した富士山を描いたガイドには『東海木曾/両道中懐宝図鑑』がありますが、こちらはより面白い表現になっています。はじめは遠くにある富士山が(13)、次第に接近してくる様子が宿場町の説明に合わせて描かれているのです(14)(15)(16)。最終的にはふもとから見上げる雄大な富士山が描かれます(17)。

ただしこのデザイン性は、説明が詳細になると帰って邪魔になるようです。富士登山ガイドを兼ねている『諸国道中旅鏡』の扉絵ではデザイン化されている富士も(18)、登山そのものの解説ページでは三峰はそれほど強調されていません(19)。実はこの傾向は、旅行方法が鉄道に置き換わった明治のガイドブックでも同じです。『開盛道中独案内』では、遠景の富士山はデザイン化されていますが(20)、詳細な図になると一見して富士山とはわからない描写で描かれています(21)。

ここまで富士山デザインについて語ってきましたが、我々は実はもっと根源的な部分で富士山を認識しているのかもしれません。『大日本諸国道中案内記』の小さな挿絵には江戸から望む小さな三角形が描かれています(22)。ズームしてもほとんどデザインらしいデザインはありませんが。我々はこれもやはり富士山だと認識してしまいます(23)。富士山は近代に入っても、現代にいたるまで様々な美術作品のモチーフとなっています。大作のみでなく、IIIF Curation Viewerで細かな富士描写をまとめてみることで、日本の絵画における富士描写に新しい発見があるかもしれません。

鈴木 親彦(CODH)

出典

  1. [200004002] 道中膝栗毛
  2. [200019702] 名物詩歌図会
  3. [200021887] 唐土名山図会
  4. [200011824] 絵本松の調
  5. [200021648] 訓蒙天地辨
  6. [200021826] 東海道中山道/道中記
  7. [200021996] 東海木曾/両道中懐宝図鑑
  8. [200021818] 諸国道中旅鏡
  9. [200021969] 開盛道中独案内
  10. [200022015] 大日本諸国道中案内記

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